第8章 タイムリミットとクローバー
だからというか、俺に勝手に期待してしまうのだと、二人には軽くだが、謝られる。
謝らないでくれと言いはしたが、心の底から信頼している相手に向けて不誠実であるからと。
「……俺こそ、人間じゃねえよ?先祖返りとはそもそもが違う。俺は人間ですらない、ただの実験で生み出された人工の肉体だ」
それが、化け物を源にして動いているだけの。
「そんな話どうでもいいよ、あの子の事考えてるのは君の頭でしょ」
「…なあ。俺が作ったら、食べてくれると思うか?」
朝に食べさせたのは、軽めのものだった。
しかし、それでももしかしたら、頑張って食べてくれたのかもしれない…いや、そんな素振りは見せられなかったからこそ、こいつらに少し背中を押して欲しくて、聞くのだが。
「そりゃ勿論、食べるでしょ」
「リアちゃんね、自分のためにって作ってもらうの大好きなんだよ」
ああ、だからか。
…だから、なのか。
いくら嫌いだろうと、いくら許せなかろうと。
それでも、寂しいものは寂しくて、飢えているものはどうしようもなくて。
愛されたいのだと、口にすることを許せないんだ。
好いて欲しいと強請ることを、させてやれないんだ。
自分を思いやることが、そもそもあいつにとって禁忌事項で、そうなるように何度と何度も生まれて教えこまれ、思い知らされて来たのだろう。
周りの大人共から。
汚い欲や自分の利益のためだけに生きる、周りのもの全てから。
そうやって、重ね続けて引き返せなくなった。
「本当はお母さんの料理とか、お父さんと遊んだりとか、友達と部活とか、してみたかったんだって。でも、しちゃいけないんだって」
そういう運命だからって、他の誰にも望もうとしてくれない。
髏々宮の言うそれが、俺の感じていたリアの暗さを明らかにしてくれる。
していいと言われないと、良いのかどうか、決められない。
俺に触れることひとつをとってもそれだった。
そもそもが分からないんだ。
そんな、酷い話があっていいものか。
あいつはまだ、たった十五の子供なのに。
椅子から立ち上がって、厨房に向けて歩いて行き、リアの肩をぽん、とたたいて話しかける。
『!どうしたの?…あ、冷蔵庫に入れとく?お腹いっぱいになっちゃった??』
「いや、まだ食べれるけどその…お礼にお菓子作りたいから、食べてくれないか?」
リアが言葉を失った。