第8章 タイムリミットとクローバー
こーんなこと出来ちゃうのに、ちっとも好きになれないの。
夏目に食べてみるかと問われて一口分いただいてみれば、うさぎ型に作られたそれの中の主役は俺とは対照的にクリームだったようで、ムースやクリーム、ソースをふんだんに使われたそれに生のシャキシャキとした新鮮な林檎が飾り切りで盛られている。
ホットデザートと言うよりは、タルトと言った方が近いだろうか。
「…美味い、けど…なんつうか、林檎の酸味が強めか?これ」
特に、ソースとムース。
その分クリームがそれらを調和し、口の中で喧嘩をしないようにしてくれているような。
それでもスッキリとした後味の良い仕上がりだが。
俺はもう少し、あと引くような濃厚さや舌に絡みつくものを期待してしまっていた分、少しだけ物足りなくなってしまうような気がする。
自分に作ってもらったものを食べたからこそ言えることだが。
「んふふ、泣くほど好きってならないでしょ?でもこれが僕にとってはたまらなく感動するアップルパイなんだよ。こんな風に出来ちゃうのにね、自分にはこういうの、いつまで経っても作ってあげないのあの子」
「…嫌いだからっつったって、食べりゃいいのに?」
「わざわざ食べないっていうのともちょっと違うんだそれが…なんていうかさ。元々食欲なかった子だから、あの子」
「あんなに食うのに?」
「食べなさ過ぎて反ノ塚君が泣いちゃったことがあったから、多分そのせい…ていうか、転生する度そうなんだよ。倒れちゃって、それでも自分の事大事にしてあげられなくて」
大事な人が泣くまで悲しんで、“そうさせたくなくて”頑張るの。
言われる言葉に、思い出す。
そう言えば、戻したり…味覚までおかしくなっていたような。
「生まれる度に後悔してるって聞いた、私。自分が死ぬ時だけ、ほんのちょっと楽になれるって」
存在することを、許してあげられそうになるんだって。
と、髏々宮には話したことがあるらしい。
前世からの記憶はあるらしく、今世でもそれを聞いたらしい。
「それ、反ノ塚は?」
「…反ノ塚君は、いつも知らないんだって。だけど、いつも絶対に、なんでか気にかけてくれるんだって言ってたよ」
それさえ先祖返りのシステムに組み込まれてのプログラムなのかとさえ、疑心暗鬼に陥ることもザラらしいがと聞いて。
ようやく俺は、彼女のことを少しだけ知れたのだ。