第8章 タイムリミットとクローバー
第一段として焼きあがったそれは丸々ワンホール分俺のものらしく、可愛らしくハートの形を模したそれにリンゴのコンポートやアイス、シナモンなどなどが添えられ、皿に盛られていく。
「ま、丸ごと…!?」
『き、切っちゃうの、?』
「たしかにな!!?分かったよこのまま全部平らげてやるよだから心配すんな!?な!!?」
よーしよーしと俺の元まで運んできてくれた本体であろうリア様を撫で回す。
本人がずっとこの調子だし、恐らく俺からそういう話を振るのはやめておいた方がいい。
折角、それなりに俺をもてなそうとしてくれているのだし。
嘘があるわけではないのだから。
まあ、このパイのデカさには中々腹を括るものがあるが。
出先でこいつに合わせて結構食べたからなぁ…何時間かかるやら。
オーブンに第二段を入れている間に、御狐神と蜻蛉の分である第三段を作るべくまたせっせと動いてらっしゃるリア。
それ自体はまあ、楽しそうだし本人も本当に好きなのだろうが。
「り、リア!?お、おおお俺のもあるのか!?」
『!もちろん、渡狸専用漢気仕様』
「うおおおお!!!テンション上がってきた!!!」
この盛り上がりは何なのだろう。
皆して、こぞって俺が口にするのを今か今かと待ちわびている。
主にリアが。
じいいい、とそんなに視線を送られてしまうと食べづらいにも程があるだろ。
「…い、いただきます…?」
『!!ど、どうぞ!!!』
ナイフで端から切って、バニラのジェラートに絡めて口に入れ、香りの次に歯応えに期待して噛んだ瞬間に、俺はそのパイの虜になる。
極薄の生地が何層にも重なり、中はずっしり、外に行くほど空気が入ってサックサク、なのにパサパサしておらずこおばしい風味と共に吹き抜ける蜂蜜の後味。
そこに折り重なる薄塗りのカスタード…カスタードなのか、?この味にこの舌ざわりで。
それと、メインのリンゴのコンポートが何種類が重ねられて…待て待て待て、なんだこの味にこの食感は。
リンゴの切り方が三種類ほど。
確認してみたところ、それぞれで色のつき方や色味が違っているような。
まとめて3層揃えて食べるもよし、分けてそれぞれの食感や味を楽しむもよして…
これが、アップルパイというもののクオリティなのか…???
「…リア」
『!は、はい…?』
「お前天才」
思わずその場で抱きしめた。