第8章 タイムリミットとクローバー
せっせと作ってくれているリアを見ながら夏目と話していれば、そこに外から帰ってきたらしい学生三人、それに御狐神が合流する。
「ただいま戻りました…が、あそこで作業されてるのはもしやリア…?」
「ああ、おかえり。アップルパイ振舞ってくれ「リアちゃんのアップルパイ…!!!」どうした髏々宮!!?」
食いつき早すぎんだろ。
目が完全にキまってやがる、そんなにやべぇのかあいつのアップルパイ。
いや、まあ弁当を食べた感想からしてみて相当な腕の持ち主であることなど分かっていることではあったが。
「ろ、髏々宮さん?そんなに美味しいのか?白縹さんのアップルパイは」
「美味しいなんてものじゃない…腕はプロどころか世界随一の巨匠級!更にはその技術力をもってして、全てを個々の好きな味に変貌させ、完成させる、いわばオートクチュールのオーダーメイドケーキ!!」
「リアの作る本気の手料理なんか食った暁には一生その味が舌の記憶から抜けなくなるぜ…ちなみに俺は初めて食べたカレーでアウトだった…!」
渡狸、お前でさえか。
髏々宮以外の奴に対してお前がそんなリアクションをするのか。
つかカレーでノックアウトってどんなレベルだよ。
「み、御狐神君…君も食べた事があるのか?」
「…僕はどちらかと言えば作っていた方ですね。一緒に過ごせた期間もかなり短かったですし」
『!!そ、そう君の声!!?』
どんだけ熱中してたんだよ、と穏やかな目線で全員が心の中で突っ込んだような気がした。
というか、そんなに仲良いのかこいつら?
「はい、ただいま戻りましたよ。何やらアップルパイを作っていると聞いたので、ここで少し見物を」
『あっ、でもそう君は凜々蝶ちゃんからの貰い物じゃないと受け取らないからそもそも作ってないや、ごめん』
一瞬にして凍りつく御狐神。
顔は穏やかだが、俺含めるリア以外のこの場の全員が何かを察する。
御狐神、お前まさか…
「いえいえ、そんなに気にしなくていいですよ。ほら、中原さんのためのアップルパイでしょう?」
『うん、ついでにみんなの分も一緒に作ってるんだけどごめんね?昔から受け取ってくれなかったからくせで…』
「僕のことはお気になさらず」
キラキラと輝くその笑みは、そこいらの女共ならすぐに落とされそうなもの。
効いてねぇ上に、分かってねえ。
こいつ、食べた事ねえんだ