第8章 タイムリミットとクローバー
さらりと、少しくせっ毛のリアの髪を撫でてみたり、頬に触れたり、親指で唇をなぞったり。
可愛がるうちに人差し指でふにふにと彼女の唇をつつくに至り、薄く塗られた桜色のグロスが指についてやけに色っぽい。
それに、耳の先まで紅くさせてるくせに、恥ずかしいのか少し嫌がるような素振りをするのが愛らしい。
個室だからと好きなように膝に乗せて、抱っこしてしまえばこちらのもの。
『、ん…何が楽しいの、これ』
「え?可愛いなと思って」
だから可愛がっているのに、そんな至極当然の事にさえ気が付かなかったそうだ。
腹部に回した俺の腕を掴んで、震えてる。
やはり慣れていないのだろう、あまりにも。
雪小路とかに好きなだけされてそうなのに。
すりすりと指の甲で頬を撫で始めると遂には耳と尻尾が一本生えてきて、可愛らしい子狐ちゃんが甘え始める。
なるほど、我慢してたわけね?
伏せるようにしてぴくぴくと動く耳がまた可愛らしい。
『…あ、の』
「?何、言ってみ」
『あ…、…え、と……っ…んーん、なんでも』
そこまできて遠慮するか、こいつは。
恥ずかしいだけならいいのだが、それだけじゃねえよなぁやっぱ。
遠慮されてんのくらい、何となく分かる。
「ん?本当に?」
『あ、ッ…♡』
ふわふわしている彼女の耳に触れ、そこに向けて口を近付けて問うてみる。
すると存外弱かったそうで、背中を反らせて尻尾をぱた、と揺らしたこの子に目をぱちくりさせた。
「…悪い、敏感だったか」
『…、ん…っぁ、』
柔らかく頭を撫でて詫びる。
変化したそれらは敏感なセンサとしての役割も果たしてくれるらしく、繊細なのだということは行為中には分かっていた。
丁寧に扱わねえと。
『……中也、さん…最初の頃、なんか…リアの尻尾鷲掴みにしたの』
「え゛、」
『は…発情、期、の…あの、からだ、変になる時期に』
そんな話聞いてねえぞ夏目。
おいどういうことだ俺、そんなことしてるなんて思わねえだろ。
『ほんっと、最低な奴だって思ってた…の』
昔と変わっちゃったんだ、デリカシーの欠けらも無い人になっちゃったんだって。
続けられるその言葉は恐らく本心で。
「…よくそれが好きになったな、?」
『……こんな風になるなんて、思わなかったから』
すり、とこちらを向いて抱きついてくる様は、さながら子狐だ。