第8章 タイムリミットとクローバー
刻印入りとなったごくごくシンプルなデザインの指輪を受け取り、改めてゆっくりと出来る個室のレストランへ移動し、時間帯的にも丁度良さそうだったのでまた軽くお茶をしながら箱を開ける。
やけに恥ずかしがって一向にこちらを向いてくれないリアだが、やはりというかなんというか、初な反応をしてくれて。
それが何よりも嬉しかった。
前世までにも、経験が無かったのかもしれないなどと想像すれば。
勿論彼女には悪いとは思うが、己の独占欲が満たされていく。
恋愛感情自体よく分かってなかったとかなんとかって夏目が言っていたのも本当にそうだったのだろう。
「どこにつけてほしい?」
『…さ、サイズ決まってるのに聞くんですか?』
「じゃあ、お手を拝借しましょうかねお嬢さん」
言えば、はい、と手の平を上にして見せられる。
純粋かお前は。
「リアちゃん、指輪つけるって分かってるか?」
『…あ!!は、はい!』
慌ててひっくり返すリア。
しかし違う、惜しい、合ってるんだけど根本的に違うそれは!素直かお前は!!
「ごめんなぁリアちゃん、俺てっきり左手につけるもんだと…」
『?…あ、あれ、こっち右…あれっ、左、あ、あれ…??』
が、両方の手を見て混乱し、頭を抱え始めるそいつ。
待て、どうした、落ち着け落ち着け。
「ちなみに俺の右手はこっち側だぞ」
右手を肩の横でヒラヒラと振ってみせると、これまた素直に右手をはい!!とテーブルに出してくれる。
「そっちが右手な?」
『うん!』
「左手出せや」
『ごめんなさい!、?』
死ぬほどテンパっていらっしゃる。
おいおい、大丈夫かぁ?
「…このままじゃ俺、いつまで経っても指輪受け取ってもらえないんたけど?」
『あ、…は、はい』
おずおずと、ようやく差し出される左手。
こちらに出すのを恥ずかしがりすぎて躊躇ってしまっているのだがそれを取って、指輪を構え、いい子、とつい口に出してしまう。
「まあ、ペアで買ったからどっちかっていうと結婚指輪みてぇになってるけど…もうちょっと、待っててな。待たせてばっかりだろうけど、思い出しきるまで諦めねえから」
『へ…?…そ、んな頑張らなくても、』
「無理してるわけじゃない。こんなに好きになったちまった子のこと、忘れたままなんて嫌だろう?」
だから、その誓いも込めて。
薬指に、それをはめた。