第8章 タイムリミットとクローバー
味気も色気もムードもなく始まった婚約指輪議論。
結果として、婚約指輪事態を渡すのはもう少し先…というか、個人的には自分が記憶をちゃんと戻して向き合ってからにしたかったというのもあって何とかこの場では買わせないように説得したのだが。
…こいつからしてみれば、そういうの、待ってる状態なんだよなぁ。
なんて、自分がそれを引き止めているのに頭を悩ませる。
決して言ってはくれないけれど、確かに、ペアのもの…というより、目に見える形でそのような繋がりを持たせてはいないような気がする。
それがこの俺と来たら、ペアの指輪なんてものは勿論のこと用意していないわ、記憶は無くすわこいつに護られてるわで情けないったらありゃしねぇ。
…そうか、もしかしてリアの奴、ずっとそういうものが欲しかったんじゃ。
色々、外に出てから連れ回しているだけでも、嬉しくないことは無いのだろうが、どこか遠慮した様子ばかりを見せる少女をどうにかして喜ばせたいと思案してはきたのだが。
彼女は、俺に一方的に何かをされるよりも、俺と共に何かを共有することの方が幸せそうで。
『中也さんは服とか見ないの?』
「え?…ああ、まあ足りてるしな」
そういうお前は?と聞き返すも、あのクローゼットを思い出してみろと言われて納得した。
足りないのは、物じゃない。
「……リア」
ふと、呼びかける。
以前の俺には及ばないかもしれない決意と覚悟ではあるが、それでもちゃんと向き合おうと、決めたばかりなのだ。
『?なぁに、』
「やっぱ、指輪見に行こう。婚約指輪…の、約束みたいな、もんで」
『え、…え??』
キョトンとしてから、ぽかんとされた。
そりゃそうか。
聞いたこともねえよなそんなもの。
「その、もっとちゃんと…お前がじゃなくて、俺がお前の隣に並んで歩けるような男になれたら、贈りてぇんだそういうのは。………けど、なんにも無いってのも、折角の縁なのに寂しいだろうと…思って」
思考が停止したように、力の抜けた表情で固まってしまうリア。
今の俺が踏み込んでは行けない領域がそこであるならば、せめてこいつを不安にさせないようにと、思いつきで申し出たこと。
『…い、いの?』
「勿論。俺がそうしたいから」
『……〜〜〜っっ、…そ、っか、!』
顔をくしゃくしゃにして微笑む彼女のこの表情を、今度こそ忘れないように