第8章 タイムリミットとクローバー
『大体なんでリアだけ忘れてんの?意味不明だしそんな事するくらいならリアの事なんか考えずに生きてればいいのに』
バクが食べるのは、その瞬間に思考を働かせて思っていたものの事。
つまりはあの瞬間、彼は私の事で頭がいっぱいだったからこそ、こんな不可解な記憶障害に見舞われてしまっているわけで。
『理不尽じゃないこんなの、聞いてないし聞いた頃には引き返せないし、最善策で全員が生き残ってたところでこれしか道が無いとかやっぱり死んどけばよかった』
「おーおー病んでる病んでる。でも生きてるから中也さんのお世話できるんじゃないの?」
『うっさい、あんたは覚えてもらってるんだからいいじゃない』
「あーごめんリアちゃん、謝るしお願いだから顔上げて、また悪い癖出ちゃってるから」
『いいなぁ皆中也さんに覚えられてて』
「野ばらちゃんこの子酔ってないよね?」
「何も盛ってないわよ、ヤケになってるリアちゃんも可愛いけど」
『分かった連勝、不老不死にしたげるから一回殺して。いい取引でしょ』
「俺の事そいつらと一緒にしちゃうの?」
『ごめんついでに殺していいよ』
「結局そういうことね」
全てが投げやりになってきた。
やさぐれたっていいだろう。
だって、ここに連れて来て残夏君を見て一瞬止まったから、もしかしてって、失礼にもちょっとだけ喜びそうになったのに。
ちゃっかり、先祖返りのことも妖館の事も、ここのみんなのことも覚えていて、親しい人に接するみたいに名前を呼んで、会話して。
…独りだけ、置いてけぼりなんて。
それを突きつけられるのがこんなにも胸が張り裂けそうな思いに苛まれる程とは、思わなかったのだ。
予知して、分かっていたはずだったから。
覚悟は、決めていたはずだったから。
『……リア、やっぱり生まれてきたくなかった』
「…“毎回”思ってるの?それ」
『転生する度に自殺したいと思ってるわよ』
結局希望を持てたところでこれなのだから。
それに、まだあの未来がやってこない。
どう足掻いたって、私には恐らく、あの人と幸せに築く未来など待っていない。
それならば、何のための今なのだろうか。
幸せなど感じたところで、こうして苦しみが増えるだけなのに。
『…いい子にしたって意味ないじゃん、生きてちゃ』
ぽつりとまた愚痴を垂れれば、頭にポンと大きな手が乗せられた。