第8章 タイムリミットとクローバー
「…君が馬鹿げたことを言わないことを願うけれど、内容による。あと、頭上げなさい。こっちだって今回だけでもこんなに助けられたんだ」
君の方こそ、恩人なのに。
昨日、Qの異能をキャンセルするために敦君と合流するまで、外敵被害を受けないような道を選んで、何かあったらそれから守って、導いてくれただけでも感謝している。
それに、私は君が思うほどできた人間ではない。
「それは、私個人にしか頼めないこと?君の周りにも、力のある人はたくさんいるけれど……ッ、」
一向に上げてくれない顔をせめてこちらに向けようと、頬に手を当てたところで感じた違和感。
そのままこちらに向けさせれば、また、この子が泣いている。
必死に、我慢してきたと言わんばかりの目で。
歯を食いしばるように、涙を溢れさせないように、我慢しようとして。
「リア、ちゃん…?……君、そんなになるまで一体何溜め込んで…」
流石にこの子の泣き顔にただ事ではないと判断して、森さんが真っ先に駆けつけに来るのだが、彼女はそのお願いを、私に向けて言い放つ。
『おね、が…っ、たす、けて……助けてっ、“治さん”…、お願、い…っ』
「…睡眠、また誤魔化したね?それに目が腫れてるの、バレバレだ。そんなに顔ぐちゃぐちゃにして………今まで見てきた中でいちばん酷い顔してるよ、君」
参った、このまま一人にしていたら間違いなくこの子、また死ぬつもりだ。
正確にはそれでさえ彼女を楽にはしてくれない。
なぜならこの子は悟りの先祖返りだから。
こんなに震えて、声まで辛そうにして。
何やってるんだあの蛞蝓は。
ふと、そこでようやく違和感に気が付いた。
「………リアちゃん、君…今日、中也から離れてきたの?」
『っ!!、…中也、さん…あの、ね……あの、…今日、が最後、なの』
「!?待ってリアちゃん、それどういうこと」
知らされていなかったらしい森さんが本気で動揺している。
それだけでは無い、あいつの事を知る黒蜥蜴の三人もだ。
「ゆっくりでいい、まず確認するよ?…未来、視たの?」
『…ん、』
「汚濁を使うとは前にも聞いていたし、その話は了承したつもりだ。それならば安心し『違う…っ、自分、可愛さにお願いしたくて、リア…』!…いいよ?言ってみな」
自分可愛さに、君がお願いを?
そんなこと、今まで一度もしてくれなかったくせに。
