第7章 燐灰石の秘め事
『言っとく、けど今何されたってそんな気分じゃ、……っ…しつこい、って…』
本人の弱い首筋だけに集中して愛撫し続ける。
流石に段々と参ってきたのか仕事をする手がたどたどしくなってきたのだが、そこまでしてまで続けている様を見るのは痛々しくて。
まるで、契約の話をしていた頃のようだ。
そして、俺に初めて弱みを見せたあの日のような。
「頑張りすぎてんの、分かってないだろ」
『仕事でそういう私情って一番いらな…っぁ、…』
少し、気が緩んできてる。
ああそうか、お前、自分のせいだと思ってんのか。
だから昼間もあんなに心配しっぱなしで、必要以上に分身作って気を張ってて。
事が起きたら起きたで無茶して敵の居場所に突入して、挙句幹部にボスと接触して。
最終的には己の命令に背いた、言わば違反者ともとれるような部下の勝手な自己判断でさえ、自分のせいだと。
そしてそれで及んだ被害に俺が弱みを見せたのが、余計に今追い込んじまってる。
「……頑張ってるよ?お前」
少しいじめるように触れていたのをやめて、後ろから彼女を抱きしめ、頭と肩と、撫でていく。
『っ、……今度は何』
「俺、お前がいなかったらこの十倍は被害出てたと思ってるから」
『だから?』
「リアが生きててくれて嬉しくて」
『……』
肩まで震わせて、何強がってんだか。
本当はずっと怖いの隠してた奴が、なんでまだ苦しんでんだよ。
「だから、見たくもねぇもん見んな。悟んなくていいそんなもん…お前が今一番分かってなきゃいけねえのは他人の死に際でもその原因でもなくて、お前が生きててくれて俺がこんなに幸せなんだって事だよ」
分かってんのか?そこんとこ。
聞き返すも返事がなくて、顔をそろりと覗き込んでみたら唇を噛んで泣いていたのでギョッとした。
待て、俺は決して泣かせるつもりで言ったんじゃ……いや、お前ならそうか、そうなるか。
「…分かったかよ、子狐ちゃん」
『……狐の方が、…好きなわけ』
変化してねぇからって妬いてんのかまさか。
「いや?でもぴったりだろうと思って。可愛いし」
『…可愛げ無いとか言ってたくせに、』
「いつの話だよ、十分すぎるくれぇに可愛らしいっつの。しかもこんな頑張り屋、これ以上しんどい思いさせたくねぇんですけど?」
『リアの仕事の後始末、よ…これは』
「幹部の仕事だ、安心しろ」