第7章 燐灰石の秘め事
「…おい、そろそろひと休憩いれねぇかお嬢さん」
『うっさいから今話しかけないでクソ幹部。具体的にはあと五時間ほど』
「とか言いながらやってる事といやぁ俺の確認作業の手伝いと、身元確認の照合に遺族への書面作りだろそりゃ。お前がやる分じゃねえ、いいからそろそろ休むか寝るかしろ」
『元々不眠症だからほっといて』
拠点に戻って、次々と運び込まれる部下達の死体袋から、悟ってはデータをとり、悟ってはデータを取り。
見た目で判断できないような奴もいるためにそのようなことを買って出てくれたのだが、そんなことをさせるために拠点に戻ったわけではないはずなのに、この少女はそれをやめない。
終わったら終わったで、それこそ彼女の仕事と呼べるものはそのデータを俺に提出するだけでいいはずが、自分がやると言って聞かないもので早数時間。
休憩無しのノンストップ業務だ。
あんまりだろ、そんなの。
「お前、なんでそんな頑張ってんの」
『頑張ってない』
「見たくもねえもん見続けてんのくらい分かんだよ、いいから俺に寄越せ」
『は?中也さんにこんな量やらせるとかありえないんだけど』
脳をフル稼働させて本気モードで働き続けるそいつの原動力はそこだったか。
口悪くなっててもバレバレだぞそれじゃ。
…どうしたもんか。
『とっととご遺族の元まで届けきるまでが私の仕事よ、そもそも全員避難でもさせてれば良かったものを、それを良しとしなかっただけの話なんだから』
「悪役買って出るつもりか」
『そんなんじゃない。ただ、責任問題に問われる正当な理由はそこだろうなって話』
カタカタと、複数のパソコンを用途に分けて操作し続けるそいつの腕前は達者なもので、常人の何倍ものスピードで処理しているということだけはわかるのだが。
「……なぁ。こっち向け」
『遠慮』
「幹部命令だ」
『……何、本気でうざったい』
はあ、とやけに不機嫌な態度。
お前、俺が悟りの力なんか持ってねえからって安心してんなさては?
「とりあえずデスクから離れろ」
『離れろとか言ってるといつまで経っても終わりませんよ。何言って「聞かねぇんならその服ひん剥いて無理矢理やめさせるけど」っ、…遂に頭イカれたの?』
セクハラだしパワハラだ。
最低最悪のハラスメント発言だろう。
「選べ」
『……アホらし、』
やめはしないらしい。