第7章 燐灰石の秘め事
「女って…あ、?」
現れたらしい、若奥様。
女の人が、いかにもな集団を目の前にして少しおろおろしているような。
『中也さん人相怖いから立原君か樋口さんに行ってもらって』
「お前今人相怖いっつったな」
少し気にしていたらしい。
ごめんごめん、またチューしてあげるから許してって。
無事に母親の元に赤ちゃんを引き渡せたところで、そこに到着したためちらりと物陰から様子を伺う。
「…あとどんくらい?」
『いつ気付くかなって』
「何、お前から来てくれるんじゃなかったわけ?」
『……えーん、中也さんとはぐれちゃったよぉー』
なんて、特に感情も込めずに披露した泣き真似にふ、と笑って、彼はこちらに向けて歩いてきた。
なんで分かったんだろ、なんて思ったけれど、そういえば今完全変化中だったなぁなんて思い出して、すぐにその犯人が尻尾であることを理解した。
「…おかえり、やっと帰ってきた…心配したんだからな、?……帰ってきた…」
軽く頭を撫でられるのにそちらに出ていこうとすれば、たちまち両腕で抱きしめられる。
『…力強すぎて痛い』
「…お前いなくなったら俺マジでやってけなくなるから、」
『……寂しかった?』
「阿呆、そんなもんじゃねぇよ」
まあ、これだけ部下にも死者が出てちゃあそうなるか。
…私は死なないってのに。
『へえ、じゃあやっとリアの気持ち理解したんだ?いい機会になったんじゃなぁい?』
「鬼かお前…今日のこれとは状況があんまりにも違いすぎるだろうが」
『っ、…ちょ、力強いんだけ、…〜〜〜ッ、……た、だいま』
意地を張るのさえ、恥ずかしさに押し負かされて、素直にそれを口にした。
それからよしよしと、私よりも少し背の高い彼の頭を撫でてあげる。
『いい子にしてた?わんわん』
「まだ勤務中だ…報告書倍にさせんぞ」
『御手柄でしょ、いいじゃん…褒めてよ』
「……馬鹿、大手柄だ…よく頑張りました」
仕返しとでも言わんばかりに、唇に貪りつかれて、気を張っていたのが抜けていく。
やば、なんでこんな安心してるんだろ…別に怖くなんてなかったはずなのに。
次第に力が抜ければ変化がとけて、元の姿で彼に抱きしめられ__
「お、ま…その格好…」
『あー…てへぺろ』
「誤魔化してんじゃねえ!!いいからとっとと羽織ってろ!!!」
彼の外套を着せられた。