第7章 燐灰石の秘め事
マーク君と別れてからは、自身にステルスをかけて人形を取りに行く。
人形自体を持っているのは、以前対峙したことのあるルーシーさんらしく、彼女も中島さんの元へと向かっている。
それならば、私もそちらへ合流を…
「おや…狐が一匹、紛れ込んだようだ」
『!!!』
「…射撃システムのコックピットの窓からしんにゅうして、そこから少ししたところに戦意を消失したトウェイン君がいてね。可愛い可愛い小狐ちゃんには発信機を取り付けてくれたというわけだ」
男の声。
組合のボス、フランシスさんだ。
携帯の端末に表示されたそれは確かに私を示している。
が、それは気づかなかったからではなくあえてそうした。
この人を足止めしておくのが私の目的であるからだ。
『…やり合いますか?』
「いやいや、俺は生憎君のような少女をいたぶる趣味はない。ただ、何が目的かなと思ってな」
ステルスを解除して彼に面と向かって対峙する。
臨戦態勢のまま。
相手には本当に戦意はないし、私を痛めつけるつもりもない。
そもそも、私を純血の妖怪やコレクター達から匿おうと提案してくれたほどの人である。
『ボスの首って言ったらどうします?』
「それは有り得ん、君という人間を俺はよく知っているからな」
あ、やば。
少しまずいことになった。
本当は、中島さんを逃がすサポートをして、ついでに拠点の位置を割り出すためにと策を持ち込んだはずなのに。
自分が先程心を許してしまった相手が、来たら。
『ッひ、…ぅ、あ……ぁ、…っ』
少し強めに握られる尻尾に、ふりかざそうとした槍を寸でのところで止め、その隙に彼に視界を奪われる。
「……ごめん、見ないふりしてあげたいんだけど、まだ戦争中だから」
『ま、っ、…ぁく、君……、』
へにゃ、と腰が抜けて、へたり込むのに、彼は私の弱いものがよく分かっているようで。
毛並みに逆らって撫でて、根元を押して、私のスイッチを切り替えてくる。
「ほら、何しに来たのか言ってみなよ…言うまでやめないよ、嫌いでしょこれ」
『んや、め…っあ、…ぁ、あ…っ』
「……捕まえておけ、街が鎮まったら帰してやる。今のままでは些か危なすぎるからな…何、夜にはマンションまで送り届けてやるさ」
ひらひらと手を振ってどこかに立ち去るフランシスさん。
「…行くよリア、じっくり話そうか?」