第7章 燐灰石の秘め事
「怒んないの?」
『…意図に、よります』
「…可愛いなぁって思って」
『挨拶の方ですか?』
「うーん……そういう事にしといて。じゃないと、中也が怖いから」
相変わらず素直じゃない人。
似てるのよね、なんとなく。
私と。
同じような目をしてるもの。
「あ、あの太宰さん…その、お二人の関係は…」
「え?…ああ、なんだろ。そうだねぇ、……理解者ってところかな。唯一無二のね」
彼も、同じようなことを考えているあたり、理解者というよりは同志というような。
まあ、人に言っても理解してはもらいにくいからそのような言い回しになるのは納得だが。
「言っておくけどリアちゃん、交際相手いるからね。そういう目的で手は出さないよ」
所謂愛情表現というか…傷の舐め合いというか。
そっか、この人心細かったんだ。
意識なくすようなレベルの事故なんて、ほぼ初めてだもんね。
病院にずっと私がいること、気付いてなかったみたいだし。
『……おいで、お願いごとなら後で聞いたげるから』
言いながら、両手を軽く広げて、彼がこちらに来るのを待つ。
「…かなわないなぁ」
貴方に必要とされるなら、私は喜んでこの身を捧げられる。
そもそも貴方がいなければ、今の私はここにいなかったかもしれない。
ふふ、と嬉しそうにしながらも、私を抱きしめる手に入る力にはあまり余裕は無さそうで。
欲してもらえていたのが分かって、嬉しかったなんて。
なんて、ひどい女なんだろう。
『言っときますけど、いつでもOKするわけじゃないですから』
「うん、分かってる」
『………中也さん意外に仕方なく許してあげるの、太宰さんくらいなんですからね』
「…ありがとう」
人肌恋しさに見舞われたというところだろう。
肩に力が入りっぱなしだったのだ、それが強制的に怪我で抜かれたようなもの。
一人で抱えきれない、言い知れぬ不安なんてものは勿論この人にもあるわけで。
「いいなぁ、悟りの力。僕にも分けてくんない?それ、ある意味割り切れそうそっちの方が」
未来が不確定な分、仲間の命を預かる立場にある人間へのプレッシャーは口にできる程度のものではない。
『ふふ、減らず口は相変わらずね。殺すわよ』
「あー…うん、好きな感じだなぁ、」
そして、彼いわく愛する女の子に二度と逢えなくなるだなんてことも。
あるらしい。