第7章 燐灰石の秘め事
同時刻、某病棟に配置させた分身が、それを目撃する。
「よいしょ、っと」
『…!?ちょっ、』
見張り続けていた彼…太宰治が病室から抜け出す準備を始めたので、それから尾行を続けていたのだが、彼の作戦に使用すべく用意されていた品々を、たった一人で今からヨコハマ中に設置していこうというのだ。
「?今何か物凄い聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえた気がす____」
思わず、まだ傷を塞いだばかりの彼が少し重量のあるものを運ぼうとするのに身を乗り出し、声を出してしまえば、振り向いた彼と目が会った瞬間になんとも言えない顔をされた。
「…いつから?」
『き、今日のあ「なるほど、ずっとか。心配性だものね君も」っ、ぅ』
おずおずと隠れようとするも、いいから出ておいでと言われて、そちらに歩いていく。
「別に、取って食べたりしないから怖がんなくていいよ。僕と君の仲だ」
『…あの、』
「まあ、今の今までこの僕が気配にすら気づかなかったなんて流石はリアちゃんってところなんだろうけど。どうせ今からすることだってお見通しだったんだろうし」
『だ、太宰さん…?』
なぁに?と笑顔で返されるのに、感じた違和感をそのまま声にして伝える。
『何か…怒って、ますか』
素直にそれを訊ねると、彼は一瞬驚いて、誤魔化さずに私の頭に触れた。
「…すごいねえリアちゃん、やっぱ分かっちゃうんだ?……うん、そりゃあね。あれだけ無茶や事するなって言ったのに、結局護衛つけてるとか意味わかんないからほんと」
そして次第にぐぐぐ、と頭を掴んで珍しく彼から痛みを与えられれば、段々と力が普通に痛くなってきて焦る。
『た、え、いたいいたい、いた、っ!!?』
「それで付けてるのが本体だったら、二度とこんな真似しないように調教してあげたのに。随分賢くなったね」
『っ!!、…あの、怖がらせようとしなくていいです。私、太宰さんのこと怖くないから』
何をされても。
罵詈雑言を浴びせられようが、暴力を振るわれようが、例え身体を求められようが。
今の私は確かにそれらを拒みはするだろうけれど、相手が貴方ならば文句は言えない。
「……こら、責任感じるんじゃないって言ったでしょ。僕はむしろ君に救われてる…“これ”手伝ってくれたら許したげるよ」
ぽんぽん、と呆れたように、しかし柔らかく微笑んで。
相変わらずだなぁ…