第7章 燐灰石の秘め事
目を開けたらそこには彼が同じくしゃがんで私と目線を合わせていて、やけに優しい顔をして私を撫で続けている。
『ぁ、…中也さ…ん』
「…耳、離していいけど?」
なにかに気付いたようにして、片手を耳にあててそれを指さし、耳から離され、意図を汲み取って耳から両手を恐る恐る離す。
何も、彼から読み取らないように細心の注意を払いながら。
「ん、よく待ってたな。離れて悪い」
『……何、してたか聞いていいやつ?』
「そうだな…聞かないでいて欲しいってお願いしたいやつ」
悟りの先祖返り…その上化かすのが得意な狐でもある私に、聞かないでなんて軽い言い回し。
信頼されてるのが、伝わる。
『うん…じゃ、聞かない』
悟らないし、探らない。
貴方がそれを望むなら、それくらい私だって叶えてみせる。
右手の小指を出すと少し驚かれたのだけれど、くしゃりと笑ってそれに彼も小指を絡めてくれた。
相変わらず、優しいの。
『でも、どこまで離れてたのかは聞いていい?』
「ああ、少し外まで行ってた」
『…り、リアほんとにぼっちにされてたんだ?』
「だからごめんって」
『ご主人様に何かあったらどうしてたつもり?さっきだって変な地響きあって凄かったのに』
「…何かあったら、呼んでくれるかなってちょっと頼りすぎてたな」
頬を撫でながらそんな事を言われてしまう。
呼んでくれるかなって、えっ、何、どういうこと。
『…!?よ、…呼ん、だら…飛んできてくれたの、?外にいたのに??』
「失礼ながら、愛のレーダーってやつに頼らせてもらってな」
ふわりと、いつの間にか服に異能で張り付けられていたらしい小型の盗聴器を浮かせられ、見せられればぽかんと今度はこちらが目を丸くさせられる。
『へ、へえ…少しやるようになってきたじゃないですか』
流石は妖館の一員、なんて言ってみると、だろ、と軽く肯定されてしまう。
おかしいな、遠回しどころかダイレクトに変態と言ったはずなのに。
「目ェ離してる時にお前にちょっかい出されちゃ堪んねぇからな。異能で付けときゃ第三者に剥がされる心配もねぇし」
『中也さん過保護ってよく言われません…?』
「誰が言うんだよそんなこと、たまに変な事言うよなお前?」
『…』
天然だった。
しかも最近目覚めたばかりの。
原因は恐らく、十中八九私なのだろうけれども。