第7章 燐灰石の秘め事
『そもそも手負いの人間が一人でこんなもの運ぼうとするとか意味分からないんで』
「一人の予定じゃなかったよ?他に何人かお願いしてるし」
『それで自分で運んでちゃ意味無いでしょって、…っ重、…』
「…君の方が見てて危なっかしいんだけど??」
よた、と左右に少しよろけながらも、車から降りてそれを街中に設置する。
ひとつでこの重さだ、こんなものを自力で設置して回ろうとしていたなんて。
設置を完了すれば車に戻り、次の目的地へ向けて運転する。
所謂無免許運転というものだ、太宰さんは片腕が使い物にならないから。
元々その動きや習慣が私にあるから良かったものの、最初台車で運ぼうとなんてしていたからマフィアの方から借りてきた。
私が悟りで良かったと、少しだけ今思えるような気がしないでもない。
「あのさ、僕が自分で持つ分には平気なんだよ?それくらいのものなら」
『…怪我人にそんなこと決める権利あると思います?敵組織の女子高生に車運転させといて』
「はは、ごもっとも」
なんて軽口を叩いているうちに、次々とそれらを設置していき、最後のひとつ。
各場所に二つ三つは置いていたのに、残った分は一つだけ。
『最後は一つでいいんですか?』
「え?…ああ、最終地点で合流予定だからさ」
『?誰と…』
言いかけたところで、その協力者さんと鉢合わせることになる。
目的地に到着すると、そこには同じデザインの機械が二つ既に設置されていて、見覚えのある二人組の姿があった。
「おい太宰!なんなんだこのふざけた装置は!!?尋常じゃない数だ、それにどうしてそんなものの半数を怪我人のお前が…、?…!!?」
私の存在に気付いたその人、国木田独歩さん。
それから、私を見て少し雰囲気が明るくなった谷崎潤一郎さん。
うわぁ、落差すご…
「リアちゃん!久しぶり」
『…ども、』
あまりにも親しくされるのに納得がいかなさすぎて、思わず太宰さんの背中に隠れる。
「あー…」
「だ、太宰!?その娘はポートマフィアの準幹部だぞ、!!」
「知ってる知ってる」
「そうでなく!」
そう、普通はそうだ。
なのにそれを、谷崎さんときたら。
「あっ、そうだ、駅前のクレープ屋さん寄っていく?リアちゃん甘いの好きでしょ」
『く、クレープ…っ』
「谷崎、お前までどうした!!?」
瞬時に尻尾を引っ込めた。