第7章 燐灰石の秘め事
「にしても、本当にここ好きな、お前」
『…嫌んなったら、外の世界の全部見下して、他人事みたいに思えるから』
「成程、頑張ってる時に来ちまうんだ?」
『っ、…なんで、分かったの』
「え?いや、無意識に来ちまうのがここなのかと思って」
言われた言葉に具体性を求めて聞いてみると、彼らしいというか、単純というか…よく言えば的確な考えを示される。
「ほら、俺がお前に初めてこっちで出会った時もここにいたから」
大浴場を好んでよく使うってわけでもなさそうだし、寧ろ好きなだけ一人で風呂入る方が好きじゃん、お前。
大浴場が目と鼻の先にあるのを分かっていて、言っている。
なんだかんだでよく見てるんだ、なんて少し嬉しかったりして。
「…あと、悪い。あんまり本人の目の前で言いたくねえけど…自殺、考えるんならここか屋上かのどっちかなんだろうなと思ってな」
本音を言うと、こっちが本命案だったと、正直に言葉にされる。
ああ、なんで分かっちゃうんだろう。
『…正解。でも、ここにいる限り絶対未遂で終わっちゃうから、“今世も”途中で諦めたの』
「学習して自殺なんかやめて欲しいところだけどな、俺は」
『だって、中也さんは…今世にしか、いないから』
「…」
『今時、珍しんだから…地位とかお金とか、そういう肩書きも、不老不死の力も、単純な戦闘力も……身体も、目的じゃなく私に親切にしてくれる人なんて』
軽く、ゆっくりと耳元に口付けられるのに身体が震えた。
そしてそこで紡がれる言葉に、途端に頭の中が真っ白になる。
「リア、お前さ…先祖返りの遺伝子研究、あれ使って、俺の事をシステムに加えるつもりはねえの?」
『……ど、ういう、?』
「お前の研究データ、俺は見せてもらっただろ?あれ、判明してる先祖返りシステムの遺伝データを一般人の身体に反映させられたら、理論的には先祖返りの量産が可能ってことになるじゃねえか」
『いや、あの…言ってる意味が、』
「お前が終われないんなら、俺がお前に食らいついてきゃいいんじゃねえのかっつってんだ」
爆弾発言…とは、正しくこのことなのだろう。
いや、確かに不可能ではないし、悟りの能力と交えて考えてみても、人魚の力を応用させればそっちならば私には可能なのだろう。
けれど、問題はそこじゃない。
『そういう、のは…却下で』
頭、おかしいこの人。