第7章 燐灰石の秘め事
「何、お前苗字で呼ばれたかったの?」
『そういう話してないでしょ今』
「…へー、素直に言わないんだ?」
『……い、や…別、に』
なんて言えばいいのかとか、どうお願いしたらいいのかとか…どうすれば気付いてくれたかなんて、分かってる。
だって私、貴方の気を引きたかっただけだもの。
名前、呼んで欲しかったのだって気づいて欲しかっただけで。
「本当に?」
『…』
最近、言えるようになっていたお願いが、途端に喉から先に出てこなくなる。
だって、だって…嫌に思われたらって。
つい昨日の事だ、あんな風にまた一人にされたら、それこそ私耐えられない。
重いって思われるかもしれない。
内心、うんざりするくらいに面倒くさいと思われるかもしれない。
最終的に相手にするのもバカバカしくなって、ほんとのほんとにお前なんか必要ないって…昨日なんか、もろにそう言われたばっかで、
「り、リアちゃん…?なんだか顔色悪いけど…」
野ばらちゃんに心配されるのに思わず顔を上げるとぎょっとされて、そのまま駆け足でその場から逃げ出した。
カゲ様のくれたプレゼントだけを抱いて、本人を置いて、逃げたのだ。
本音を探るのさえ、恐ろしかったから。
「リア!!?」
「白縹さん!?」
引き止めるような声が聞こえた気がするけれど、構う余裕なんてなかった。
…カゲ様もカゲ様だ、よく分かってる、私が安心できるもの。
無機物相手になら、偶発的に周りのものを悟ったところで、自分から探らない限りは何も悟らずに済む。
だから、このチョイスなのだろう。
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「帰ったぞリアちゃん!!お土産付きだ!!」
『…あっそ』
「ううう冷たい!だがそこがいい、流石はリアちゃん…っ、……痺れるついでに私特製のカゲ様抱き枕を贈呈しよう!!!」
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お前はすぐに溜め込むからなぁ…
中也殿と確執があったら、すがりつく先が必要だろう?
わざわざ悟って、込められた想いに…素直に涙した。
そうだ、昨日私の居場所を突き止めたのだってカゲ様って言ってた。
それでわざわざ…得意でもなかったくせに、また手作りでこんなの作って。
たった一言、言うのが恐ろしくなった。
ただ、それだけ…たったそれだけのこと。
『……っ、…も、っと…リアにばっか、構ってよぉ…ッ』
ふと、顔を埋めたぬいぐるみが動いた気がした。