第7章 燐灰石の秘め事
「!!?!?、お、おいお前っ、…条件反射、だ。許せよ」
『ッ、!!…っク、……、ン、…っ』
私の身体に触れるのをどうしてか躊躇った彼は、ゆっくりと、ぎこちなくその手を私に回し返して背中を撫でる。
あれ、変なの。
身体おかしくなんない。
刺激も、快楽も感じない。
変なの…、
「なんだよ、子供らしいところあるじゃねえか。…言ってみ、嫌なことあったんだろ」
『、っ…』
コクリと頷いたらぽんぽん、と頭を撫でてくれる。
こんな優しく扱われること、滅多にないのに。
今なんかじゃ、もう連勝くらいしかこんなこと…
「それにお前は悪くない。被害者だ、誰かのな…怪我までして、痛かったろ。そんな痣出来てんだ」
首を横に振って否定すれば馬鹿、と軽く笑われた。
「痛かったら痛えっつっていいんだよ。覚えとけ」
『…、…い、た…っ…かった、』
「…はい、よく言えました」
言わせて、くれた。
聞いてくれた。
痛いことも、気持ちいことも怖いこともされなかった。
ただただ心地よかったの。
「こら、あんまくっつき過ぎると点滴つけてんだから抜けちまう…危ないだろ」
『あ、…ご、めんなさい』
「…何に謝ったんだ?それ」
『え、?…嫌だった、かなって…そ、それに中原さん危ないって、言って……』
あー…、と何かを言いかけて、少し軽めの溜息を吐いてから彼は私の汲み取ったそれを訂正する。
「誤解すんなよ、嫌なら最初から引っペがしてる…あと、危ないってのはお前の腕の方。変に刺さりすぎたり傷口拡げたりしたらダメだろ」
『…そんなの言う人初めて見た、』
「え?…お前……家族は?」
『……さあ、』
「…怪我しねえなら、貸してやっていいけど?」
今は、何かに支えてもらわないと呼吸が出来なくなる。
何かに縋りつかないと、立てなくなる。
『……変な、人』
「失礼な奴だな本当に…」
なんて言うのに、彼の方から抱き寄せてくれてしまう。
それからまた、ゆっくりと手のひらで撫でてくれる。
あんまりにもそれが心地よくて、余計に自分が惨めになって、また泣いて、だけどその顔を見せたくなくて。
きゅ、と手で掴んで彼のシャツをクシャクシャにするのを怒りもせずに、ただただ撫でてくれていた。
そしてまた思うのだ。
この人の一部に、生まれてきたかったと。
「……寝落ちかよ、クソ餓鬼」