第7章 燐灰石の秘め事
森さんが退席してから、動こうにも動けない私が中原さんから逃れる術はなく、なんとも重たい空気が流れる。
「…なあ、お前」
『…何ですか』
「確認だ、正直に答えろ。まず、言われてた仕事に赴くつもりは?あったのか?」
『……まあ、それなりには』
それなりってなんだよ、と突っ込まれつつも、次の質問に移る。
「首領はああ言ってたけどお前、転んだなんて嘘だろ。転んだ程度でそこから身投げする意味が分からねえ俺には」
『私いつも自殺するのがデフォルトですから』
「馬鹿言え、そんな奴この世に二人もいねえんだよ。だいたいそういう奴は失敗したらしたでヘラヘラ笑って人様に迷惑かけまくって勝手気ままに生きてんだ」
やけに細かいな。
しかも二人もいないってことは一人は知ってる人なんだ。
十中八九太宰さんのことだろうけど。
「……俺が、信じられねえか?」
『へ、…』
下から覗き込むようにこちらを伺うその人に、割れ物を扱うようにそっと両手を包まれて、しかしそれを振り払おうとするとそのまま無理矢理握られてしまう。
それに混乱し始めればまたあいつと重なって感じて、呼吸が乱れ、気分が悪くなる。
頭、ぐるぐるなっておかしい。
やだ、だってもう、さっきだけでもあんな…あんなに、出されて…
「俺は、…お前が嫌がることはしねえぞ」
『っ!!!、…な、にが…何言っ、て…、』
「他の誰かに口外しねえ、首領にも黙っといてやる…理由は言いたくなきゃ言わなければいい。ただ、無理に色々背負い込まずに吐き出さねえとお前…潰れちまうぞ」
じわ、と、再会してからその人の前で見せる二度目の涙になる。
なんで、そんな真っ直ぐな目で私の事見るの、この人。
…なんで、私がサボってただけかもしれないとか……私が問題起こしたのを隠滅しようとしてるとか、考えないの。
なんで私なんかのこと、信じられるの。
『…っ、ぁ…い、意味分かんな、』
「……怖がんな、俺を。…分かんだよお前のその目…自分の事責めて、諦めてる奴の目だって」
“他の誰でもない、俺がそうであったから”
嘘なんか言ってない。
彼はなんにも変わってない。
「なんでもいい、お前がそんなに辛いんなら俺がお前を信じてやる…だからそんな怯えんな」
思わず、耐えきれなくなって抱きついた。
顔を隠したかったのか、男ではなく、彼を感じたかったのか。