第7章 燐灰石の秘め事
痛いのばっか。
汚いのばっか。
私の中身はそんなものばかり。
私はそれの入れ物に過ぎなくて、その入れ物でさえも穢いので溢れ、存在そのものを無かったことにされたのだ。
迫ってくる手が私を撫でるのは私の血肉を求めるから。
もしくは名を馳せたいか、単に欲望の吐き出し口としてしか扱われることなどない。
私という人間はそんな単純なものでしかないのだから。
「脱水症ってまた…なんでそんな、」
「さすがにそこまでは分からないけど、腹部の打ちみなんか酷いものだ。一体誰にやられたんだか」
声が、二つ。
私の大好きな声と、優しい人の。
服が少しはだけさせられているのを感じて、また身体が固まっていく。
「本人には悪いけど、何あったかもしれないし…中也君一旦カーテン閉めといて?とりあえずズボン脱がして他に怪我が無いか確認を___」
手をかけられたところで、反射的に手が動く。
ぱし、とその手を払い除けた後にその人の顔を認識して、やってしまったと頭の中がこんがらがる。
『あ、…え、っと……おは、ようございます』
「…おはよう、リアちゃん。ごめんね、君が突然気を失ったものだから少し診させてもらってて…その、お腹と頬、どうしたの?」
『……、か、い段で転び、ました』
「はぁ!?おまっ、…んなわけあるか、どうやったら階段で転んだ程度でそんな怪我になるんだよ!?」
全力で咎められるのに耳を貸す余裕などない。
『手すりが、ほら…金属だから、変に転がってそれにぶつかって……その、』
刺さる視線が、怖い。
まるで私の全てを見透かされているようで。
私の中に、あの男の一部が入ったことでさえ見られているような気がしてならなくて。
こちらに向かって伸ばされかけた森さんの手に、思わず全身が跳ねて思いきり目をつぶって身構える。
「……うん、そう。階段で転んじゃったの、気を付けるんだよ?エレベーター使っていいって知らなかった?」
『、っ…あ、…は、い……ごめん、なさい』
「うん、次からは使っていいからね。そんなに謝らなくてもいいよ、怪我くらい誰だってするし…ああでも、もし誰かに悪質なことをされたのならいつでも言ってくれればいいから」
『………私みたいな新人、いびるような人いませんて』
「そっか。じゃ、とりあえず点滴終わるまでゆっくりしてて。中也君、しばらくよろしく」