第7章 燐灰石の秘め事
人通りの少なそうな廊下で、柱に隠れてへたり込む。
いつものように、最後に掃除と称して口からも飲まされ、吸わされたあれの臭いが消えない。
まともに動けるようになった頃にはAはとっくに姿を消していて、先に手洗の個室で掻き出せるだけ掻き出して、何度も吐いた。
折角、私の事必要としてくれたのに。
折角力になれると思ったのに、最初からこんな…
『、…死にた、…っ』
おぼつかない足取りで屋上へ登り、そのまままた死に縋るように、柵から外へと身を投げる。
瞬間、首領の執務室の窓のシャッターが完全に開いていることに気がついて、中にいる人物からの強すぎる衝撃を受け止めてしまった。
マジックミラー形式で姿こそ見えないものの、その人が瞬発的に異能を使って窓を開け、飛び出してきて…また、私を包み込んで。
そのまま異能で体を保護して地面まで着地した頃に、呼吸を整えるその人に私は声を出せないままで。
『っ、ぁ…な、…ぇ、…』
「…ッッ、手前…っ、何、飛び降りてんだ。…仕事早速すっぽかしたかと思ってみれば……何、遊んでやがる」
怒ってる。
そりゃそうだ、仕事を丸々サボっていたようなもので、入ったばかりなのに言うことを聞かないなんてそんなの…
この人に怒られるのは、私の中では生命線が絶たれるようなもの。
だって、他の男に乱暴されるのとはレベルが違う。
失望されたら、それこそ生きてる意味なんか他に何も見いだせなく__
「っ、あ…?、…てめ、…泣いたのか、?」
『え、…あ、え…は、?そんなわけ、な…っ、…はな、して』
気付かれたら困る。
貴方にだけは。
「離したらまたどっか行くんだろお前…頬も腫れてる。何があった?」
『!!!い、いから…っ…離して、って…!!』
ビクともしない腕の力が、怖くなる。
あれ、どうしよう、そういえばこの人、ポートマフィアでも随一の体術使いだって森さんが…
『、ねが、……お願、ぃ…だ、から…』
聞いて貰えなかったそれを、癖になってしまった言葉を、無意識のうちに使っていた。
「……手当が先だ、医務室行くから立て」
『、いらな「痛ぇもん我慢すんな、女だろ…傷跡残ったら勿体ねえ」……え、?』
怒ってるんじゃない。
この人、私の事…
“何泣いてやがんだ…震えきってんじゃねえか”
心配、して…?
ふ、と目の前がぼやけていった。