第6章 スカビオサの予兆
「.......失礼。中原殿は部下思いなのですね?」
「...俺の右腕に、何か用があるなら俺を挟め。“幹部命令”だ」
それだけ言い捨てて、とっととその場を過ぎ去っていく。
俺とあいつとじゃ、立場が変わる。
こちらの方が信頼も人望もある上、時には上からの助力だって望めるのだから。
『.......り、あ...いつの間に、右腕?』
「契約してからだな」
『ゆ、有能?有能な部下??』
「え?...あー、それはそうだけど.......信頼してる」
『キュゥ、.......っ♡♡』
「えっ」
キャパオーバーしやがった。
おいおいマジでか、まだ朝だぞ、昼にもなってねえぞ。
いや、今日は仕事させるつもりねえからいいっちゃいいんだけどこいつ...こんな調子で大丈夫か本当に?
『ち、中也さんが...せ、世界で一番愛してるって、!』
言ってねえな。
思ってるけど。
「おおそうか、良かったな」
『!?こ、婚姻届…!!?』
「それはマジで言ってねえな?戻ってこいリアちゃん」
『リアちゃ、.......♡』
頭の中それでいっぱいだなお前。
まあ、怖がってるよかよっぽどいいが。
そっか、こいつちゃん付けされんの好きなのか。
もしかして、だから蜻蛉も反ノ塚も髏々宮もそう呼んでいるのか...?
雪小路は素で誰にでもそうだろうが、蜻蛉なんか他にそんな呼び方してる奴見た事ねえし。
御狐神はまあ、従兄だから普通に呼び捨てなんだろうけど。
「.......リアちゃん?」
『っひゃ、』
「...」
マジだこいつ、間違いねぇ。
どんだけ初心だよ、どんだけ乙女だよ。
それならそうと早く言え早く。
なんなら入社したタイミングで言えや。
あ?上司にんな事言えねえ?
言えよ俺の部下だろうが手前。
「ほい、とりあえずソファー使え。ブランケットと掛け布団…あとクッションもいるだろ?他に経口補水液と栄養剤と、氷嚢と、」
『中也さんパパみたい...♡』
「.......一々照れくさいこと言ってくれるよなお前?」
とりあえず撫でておいた。
全力で。
おーそうかそうか、パパか、俺はお前のパパだなよーし覚えとけよ手前。
「ちなみに父親とは結婚できねえし、父親は娘にキスもエロいこともしねえよ?」
『じゃ、あ…セフレ?』
「…」
『……こ、い…人』
「よろしい」