第6章 スカビオサの予兆
『ひゃぅ、…っ』
「あーこら、逃げんな逃げんな。身体に悪いことしてるわけじゃねえんだから」
『…冷えピタきらい』
「……そうか、それなら先に言っとけ。氷嚢なら?」
『え…、だ、いじょぶ』
「よし、んじゃ用意してく…………おい、姫さん?」
ベッドの上に彼女を座らせて、冷却シートで処置をしようとしたところで、偉く変化パーツが萎縮するかと思ったら苦手と来た。
まああまり好きでないのならばそれにこだわる必要も無い。
だからすぐに取り替えようと、その場を離れようとするのにこの小狐はクゥン、と鳴き声が聞こえるような潤ませた瞳で俺を見つめて離してくれない。
やめろ、なんなんだその小動物チックな眼差しは。
狐か、俺の大好きな動物ランキング堂々の一位に君臨しちまう狐様か。
ああそうだよどこぞの誰かのせいでだいすきだよこんにゃろう可愛いなぁおい。
『……え、や…えと、…行っちゃ、うんだなって思っ……て、ない、ですけどその、』
「思ってねえの?」
『…思っ、て……い、い…?』
「……いいよ?よく言えたじゃねえか、それなら着いてきたらいい」
よしよしと頭を撫でてやると酷く安心したようにへにゃりと微笑んで、俺のシャツを掴んで立ち上がる。
「服でいいのか?抱きついてていいのに」
『…中原さんどっちが好き、?』
「俺はお前がしたいことが好き」
少し考える素振りをしてから、両手を広げて俺に目で何かを訴えかけてくる。
待てよ、少し今から写真に納める。
カシャリとシャッターを切ると、ぶわっと恥ずかしさにまた泣かれそうになったので必死にごめんと連呼して謝っておいた。
「い、いやあのな!?あんまり可愛らしいことしてくれるからついな!!?」
『り、りあ、頑張っ……、頑張って…っ』
「抱っこか!?抱っこだな!!?」
『ち、違うもん…、』
「分かったおんぶだ!そうかリア、そうと決まればすぐに背中に」
『ちがうもん、!!!』
全力で否定された。
遂に来たか反抗期。
いや、それは全て俺のせいだが。
「…いや、でもお前そのジェスチャーだとその二択しか………、?」
ぷるぷると震える彼女の耳が、やけに紅い。
頑張ってくれた事がよく分かるが、頑張るほどのことを…?
思いついたそれを問うべく、腰をかがめて彼女に目線を合わせて聞く。
「…もしかして、お姫様抱っこ?」
