第6章 スカビオサの予兆
一先ず、勤務時には俺から離れない…もしくは信頼のおける誰かと行動を共にすること。
そして相手に都合よく脅されても乗らないこと。
俺をダシに使われても、人質に取られてもいいのだと、ちゃんと彼女に教えていけば、以前一度だけ目にしたことのある黒色の尾が生えてきた。
そして、ようやく安心できたのだとでも言うようにして、力が抜けていく。
“お前は元々十尾だろ!!”
いつかに聞いた渡狸の声が思い起こされる。
真尾とやらのことはよく分からないが、それでもそんなものを俺にさらけ出してしまう程に参っていたのだろう。
『…り、あのこと…怒んないんです、か』
「……なんで俺が被害者に…世界で一番幸せにしたい女の子に、とどめ刺さなきゃなんねえの」
『、…とどめ、とか大袈裟な』
大袈裟なもんか。
お前、マジで死ににいくだろそんな事したら…相手が俺なんだ、自殺さえ計りかねないじゃねえか。
「とにかく、俺はお前にゃ怒ってねえよ…軽蔑もしてない。……いつも言うけど、心配ならいつでも思考読んでくれて構わないから。お前が不安にならない方が俺にとっちゃよっぽど大事だ」
『…ちゅう、したいです』
「顔上げる余裕が出来てからでいい。逃げねえよ俺は」
『、そ、いうことするから…ずるい、んですよ…?』
「お前もそんだけ頑張ってくれちまう子だからなぁ?頑張った分だけいい男が護ってやるんだよ、いいな?」
にしても、相手が相手なだけあって、確かにこいつにとっては太刀打ちしにくい野郎ではある。
まずは下手に動くより先に、首領に話を通すのが筋だろう…が。
「ちなみに、動く上で確認するけどそれ、首領は知ってんのか?」
『…言ってない、』
「そこにも言ってねえのかよ、力になってくれるだろうに」
『中原さんに聞かれちゃ、やだったの』
あくまで俺か。
どんだけだよ、お前の忠誠心半端無さすぎんだろそれ。
「首領に言うのが怖かったとかって先に思わねえ?」
『?どうでも、…あ、あんま考えてなかった』
今もろにどうでもいいって言ったなこいつ。
「んじゃ、首領に話す上でそれ全部伝えることになっちまうかもしれねえけど?」
『…中原さん、が…いてくれるなら』
そこまでして俺か…それでいいのか?お前は。
「…お望みの刑はございますかね」
『中原さんからの一日抱っこ刑』
「お前じゃなくて、」