第6章 スカビオサの予兆
憎悪は湧くものの、そちらに気を許してしまえばそれこそリアがすがれなくなる。
だから必死に抑えるのに、聞かされるそれらの行為を想像するだけでも…また、それを俺に隠し通して生きてきたこの少女に、涙さえ溢れてきてしまって。
泣きたいのは、泣いていいのはこいつなのに。
なんて情けないんだ俺は…何、我慢ばっかさせてんだ。
元々不老不死の力を目的にして攫われたものの、それが一時的に強姦に発展して、なんとか逃れられたはいいもののそのすぐ後に自分の存在は、世間一般的には愛してくれているはずの血縁者たちによって抹消され、事実的には追放されて。
男に逆らえないトラウマを植え付けられ、挙句乱暴されて、今になってまた再会したかと思えば今度は都合のいいように性奴隷扱いとは。
「……派閥抗争でもなんでもかかってこい、部下一人護れねぇでなにが幹部だ…言って、いい。責任とか、感じなくていいし…増してや俺に迷惑なんかかかんねえから…、な…?」
黙っていたのさえ、自分のためではなく俺のため。
抵抗しなかったのも、俺が知らなかっただけでこいつは俺を知っていたんだから。
どれ程、言いたかったのだろう。
そして、もしも俺達が今のような間柄でなければ、こいつは今でもそんな風にして、我慢し続けていたのだろうか…するんだろうな、それがお前だ。
『だ、からその…なかはらさ、に顔向け、出来な…っ』
「………お前、もしかしてそれで無断欠勤ばっかりしてたのか?」
『へ、…や、あの…』
「正直に言えばいい。俺は自分のこと責めねえから」
ぽんぽん、と背中を撫でてやる内にまたこくりと頷いてくれて、不可解な現象にも筋が通った。
元々生真面目な性格で、その上俺の事を好いてくれていたのなら。
「お前、実は俺がいるからうちに入って…俺の部下になりに来たの?」
『っ…ぅ、ん』
「なんだそれ、えらく可愛らしい志望動機じゃねえか。…助けて欲しくて、一緒に…いたかった?」
『!!』
「…それなら、もうこれからふざけてるフリなんかすんな…悪ノリしてふざけて、楽しいんならそれでいい。けど…けどなぁ、お前………助けてって、言わねぇと…俺、太宰みたいに頭切れねぇし、気付けねぇんだわ」
弱いところまで打ち明ければ、彼女もそれに、応えてくれる。
『……なかはら、さ…、』
「ん、何」
『っ…た、す…けて、……ッ、?』