第6章 スカビオサの予兆
「まあ、そんなに焦んなくていいよ。俺十分リアのこと可愛がらせてもらってるし」
『…、…り、あが…隠し事、してたら怒り…ます、か…?』
「……あるっつってるようなもんだぞ?それ。…ものにもよるが、言えなくて苦しんでるんなら怒るぞ、俺は」
びくりとしてから、固まってしまう。
これはもしかしたら誤解されちまったかもしれねえな。
「話したいと思える時に話してくれるんならそれでいい…ただ、俺に言いてえのに怖くて言えなくて、どうしようもなくなってるんなら…助けてくれって、言えばいい」
何か、まだ思い詰めていることがあるのだろうか…それとも、拠点で立原の口を制して俺に何かを誤魔化していた件だろうか。
咽び泣くのに声を抑えようとするそいつを撫でる手に、力を入れすぎないよう…怖がらせないよう、意識する。
口にすれば、何とかしてやれるかもしれない。
言ってくれれば、いい。
『ッ…、にが、てな人が…い、て』
「…おう」
震えが、止まらない。
必死なのだろう、それを口にするのに。
『…っ、…怒ん、ない…ッ?捨て、ない…っ…?』
「………言えたら、御褒美に褒めてやるよ。…それに、お前の怖いもん、やっつけてやる」
耳を伏せさせて、すがりつくように、腕を腰にまわされた。
先程こいつが口にした願望とやらの原因もそれか、この様子じゃ。
馬鹿だよお前は、なんで俺が、お前が苦しんでんのにとどめ刺さなきゃならねえんだ。
そういうの、ぶち壊してやるためにお前のもんになったはずなのに。
『!!、…ポート、マフィア、に…っ…』
「!大丈夫か?勢いで言い切らなくても待つぞ?落ち着くまで」
『い、いッ…、…組織、に、っ……リア、のこと……どれ、…っ…に、してる人がい、て…』
聞いた事実に、血がざわつく。
ああ、成程…それで俺に?
自分で言いたかった言葉を、紡げなくなるほどにメンタルやられてて、それでも吐き出さなきゃやってられなくなったのか…俺を信頼してくれたからか。
「うん、どうした」
『ぁ、…っ…リア、中原さん、の部、下だか、ら…っ、派閥抗争と、かならないよ、にって大人しくし、て…ッ』
「…そう脅されたのか?」
『ッ!!!、』
少ししてから、呆気なく…覇気もプライドも感じられないような力なさで、今度ばかりは自分の力で頷いてそれを肯定してくれた。