第6章 スカビオサの予兆
パタパタ、ふりふりと揺れる尻尾。
増えに増えて、九本目。
俺の膝元に頭を乗せて、撫でられるのに甘えきっている彼女はさながら本物の狐のよう。
これもそろそろ慣れてきたはずなのに、どうにもくすぐったい気持ちにさせられる。
誰かを想うのがこんなにも心地よいものだとは思わなくて、余計になのだろうが。
「なんだよ、くすぐってぇぞ」
『んにゃ、…なかはらさんすぐリアのこと甘やかす…から、』
眠そうな声も、最近は出してくれるようになってきた。
不眠症だなんて嘘であったかと思ってしまうほどだ。
こんなに懐いてくれちまってまあ…
重力に従ってベッドに垂れたまま、リラックスしながらも嬉しさを表現するその尻尾が全てを物語ってくれている。
そもそも尻尾を生やすこと自体が信頼の証でもあるのだが、安らかなもんだ、こんな状態。
「甘やかしてねえよ?俺はしたいことしかしねぇ主義だ」
『…甘やかしてないの?』
「全然自然体だな、この程度じゃ」
ふぅん、とこちらをちらりと見ていた顔をまた伏せて、それから。
ぐりぐりと腹部に狐耳を擦るように圧迫してくるリアにクスリと笑いそうになる。
「今度は何だ?」
ん?と聞き返すのと共に尻尾に手のひらを使って触れると、ビク、と体を縮めこませようと反応する。
まあ、弱ぇみたいだしな。
『……ちょっ、とだけ…その、ッふ…、っ…ぅ、ぁ…っ…』
逆毛にするように撫であげるのはやはり効くらしく、恥ずかしがっているのかやけに小さな声で鳴き始めた。
女狐…なんだけどなぁ、こいつ。
なんでこんな純粋なんだか。
「言ってくれればなんでも言うこと聞くけど?お前のシークレットサービスは」
『ッ、!…、っあ、の……、…あま、や…かして、くらさい…♡』
「…どんな風に?」
『ッふえ、!!?♡』
きゅ、と軽く根元を掴んでみれば、同時に身体を大きく跳ねさせてからひどく動揺されてしまう。
流石にビビらせすぎたかと頭にキスを落としていくと、少し大人しくなって、彼女が思いを口にしてくれる。
『あ、ぅ…、……なかはら、さんの…に、して…っ』
「、?…もうしてなかったっけ」
『にk…じゃな、くてえっと、…あの…あの、ぁ…』
言いかけた言葉は、恐らく言わないようにさせた言葉だ。
となれば、何を言いたいのかは俺には手に取るように分かること。
そう来たか…