第6章 スカビオサの予兆
「つってまぁ、抗争中の方が仕事量少ねぇのってなんか調子狂うよなぁ…ほぼ全構成員待機になるのもあって役職持ってるとマジで仕事全部取られちまう」
『そんなにしたいんならしてきたら?リアのことおいて』
「構って欲しいんならそんな憎まれ口叩いてないで構ってって言えばいいんですよクソ新入りちゃん?」
『………、か、まって』
「はい可愛い俺のリア」
阿呆な茶番をするのが心地良い。
こいつもこいつで最近だいぶ丸くなってきたし。
多分俺が馬鹿になっていった方が余計なことを考えずに済むようになるからなのだろうが。
髪を乾かし終えてから流石にそろそろ自力で歩くと言って変化を解いてしまった俺の恋人は今日も甘えたな気分らしい。
三百六十五日の惚気日記でも書けそうだなこんな調子じゃ。
そんなもんが書ける時間に戯れられるから書かねえけど。
『だ、だいたいお仕事ならいつもいっぱいしてる、んだから…リアのこと放って』
「シークレットサービス始めてからは仕事で離れなくなったろ?主にお前が」
『…中也さんの事リアが養えるようになったらずっと一緒にいられるのに?』
「それなら逆も然りだな?」
ぷくりと頬を膨らませて拗ねる素振りを見せられる。
あざといなぁほんと、自覚も意識もないんだろうけど。
「言ってもお前、大学受かったら仕事の前に通学になんの分かってるか?」
『……あ、え…り、リア死んじゃうそんなの…っ』
「悪い、俺が悪かった本っ当に」
ガタガタと震えながら本気で泣かれた。
えっ、お前そんな…ええ、??
そんなんだっけこいつ、えらい性格変わったよなほんと。
こっちが素だったんだろうけど。
「あー、と…どうしようか?その場合」
とりあえず落ち着かせるべくよしよしと撫でながら、ベッドに腰掛ける彼女に目線を合わせるべく屈むと、尻尾が生えていたことが確認できた。
ガチ泣きかおい、俺お前に泣かれんのには弱ぇんだってば。
『……い、いいい行くもん…ひ、一人で行けるもんそのくらい』
まるで保育園児だが、恐らく本人にその認識は無い。
「…授業日、車で送迎はするけど?」
『…お、お昼』
ぽつりと、小さな甘えた声が聞こえてくる。
『電話、してい…?』
「!…おう、昼に限らずいつでもかけてきたらいいよ」
『ほ、ほんと…?』
揺れる尻尾がまた可愛らしい。