第6章 スカビオサの予兆
『…よかった、んですか………結局、中原さ…シてない、ですけど』
「いいも何も、そもそもお前のこと可愛がってただけなんだから気にすんじゃねえよ。シたくなったらそんときお願いすっから俺は」
『……人間に、戻らなくてもできるとか…ほんと、変な人』
「戻るも何もどの道お前じゃ変わりねえっての」
きゅ、と大判の布を胸元に巻いて結んでやると漸く枕から顔を離してくれるリア。
まあ、こっちに変化しちまったら歩けねぇもんな…それがいきなり変化しちまったから驚きだが、悪い気はしない。
鱗の生え際もいつの間にか元に戻っており、本人的に隠したいところは隠れたそうなのだが、いかんせん見られるのに慣れていない姿だからかやけにずっと恥ずかしがってくれてしまっている。
「んで、どうしたんだ?いきなりこっちに変化しちまうなんて珍しいじゃねえか」
『…り、リアクション試してみようと思って』
「まだ心配してたのかお前?もう何回か見せてもらってんのに」
『な、生々しいからこんなの…』
「そうか?狐レベルに可愛がれんぞ俺は」
ぐ、と腕を引いて起こしてやり、そのまま抱きとめてぽんぽんと頭を撫で続ける。
ちっせぇのも細っこいのも変わらねえ。
強いて言うならこうしてしまえば抵抗が出来なくなるくらいのことで、しかし本人も嫌な気はしていないらしく、やはりぱた、とひれを振って満更でもなさそうな顔をしてくれるのだ。
『狐とこっちならどっちが好き、?』
「お前中々鬼畜な二択迫ってくるよな…ええ、どっちって聞かれても。……色々と分かりやすくなるし可愛らしいのが狐で、こっちはすんごい綺麗なんだよ、お前。正直どっちも美味いから三度美味い」
『さ、三度…?二度じゃなくて?』
「変化してねぇ時に色々誤魔化そうとしてんのもそれはそれで愛らしいんだよ」
一瞬固まってから、俺に腕を回してぐ、と顔を埋めてくる。
「あ?どうしたどうした、充電中か?」
『ん…中原さんタラシ』
「ちげえっての、あと名前」
『…リア年下だもん』
「お前さてはわざとだな」
『た、たまに………ダメ、ですか』
何こいつ可愛い、おいそれ録音させろ。
お前俺の事盗聴してんなら俺が録音する権利もあるよな?ええ??
「いいぞリアちゃん、もう好きなだけ好きなようにのびのび過ごせ〜…今日風呂入れてやろうか」
『!!…う、ん』