第6章 スカビオサの予兆
帰りに車の中でまた眠ってしまったらしく、そのままおぶって部屋まで戻る。
今日はやけに眠るのが多い気がするが、寝れないよりはよっぽどいいのでよしとしよう。
『んん、…』
すんげぇ抱きついてくるし。
寝てれば三倍子供らしいのにな。
軽く腹ごしらえもしてきたところだし、また夜に腹が減るまで少し仕事を進めておくか。
なんて、いつも聞こえるはずの少女の声が俺に話しかけてこないだけで、物足りなさを感じてしまうくらいには慣れてしまったらしい。
俺も大概、それなりに情が芽生えちまってんだろうなぁ、なんて。
恩があるのはこっちの方だよ、馬鹿。
ベッドに横にしようとするのに中々離してくれないあたり、何にも聞こえちゃいないのだろうがな。
「ほら、リア。ベッド着いたぞ」
『…なかはらさ、』
素に戻ると丁寧な奴だよなぁ、やっぱり。
あんな態度ばっかりだったくせして、呼んだかと思えば中原さんてなんだそれ、部下っぽいじゃねぇか、散々なことばっかり言ってきてたくせに。
まあ、中々名前じゃ呼びにくいっつーのは確かなんだろうが、それでも苦手なりに呼ぼうと努力してくれているのは微笑ましい限りだ。
『んー…、浮気者ぉ…っ』
「誰が浮気者だシバくぞコラ」
『へにゃ!!?』
額に向けて頭突きしてしまえばそれに乗じて目が覚めたらしい。
あー、つい衝動でやっちまった、こいつ人のことおちょくる天才かもしれねぇ。
『…は、れ…??な、か…中也さん、エリスちゃんとお買い物してたんじゃ、』
「いつまで夢見てんだ手前、もっかい頭突きかますぞ」
『……ロリコン』
「それは首領だけで間に合ってる」
『…あげない、』
ベッドに大人しく座ったかと思えば、今度は正面から抱きついてきやがった。
こいつほんとに寝起きだけはタチが悪い。
いい加減にしねぇと襲うぞマジで。
「はいはい、お前のだから」
『ん…』
ふと、彼女の衣服が何故かずるりとはだけ落ちる。
思わずギョッとして目をやってしまうと、久しく彼女のその姿を目にすることとなった。
艶やかな髪の美しさはそのままに、そのしなやかな両脚が束ねられ、形を変え、数多の鱗に覆われる。
透き通る海のようなその色にまたも目を奪われるのだが、まるで狐の尾のように感情と連結しているのか、ふりふりと嬉しそうなご様子だ。
「あの、姫さん?照れんだけど…」