第6章 スカビオサの予兆
「誰がタラシだ、手前マジでなんなら今から連行すんぞ」
『い、いいいい今からとかダメだから!!抗争中に横浜離れるとか…』
「…そんなに俺がしんどい思いしてやってるように見えるか?」
すぅ、と目を丸くさせてこちらを見る彼女のその目はどこまでも見通されているような。
そうだ、読めばいい。
不安に思わなくても、お前には俺の全てを見通せる力があるのだから。
『………あ、まやかし願望…どんだけあるんですか』
「!やっと見たのか?今更だな」
『!?や、いやあの…っ、…ほんとに、ほんとのほんとに迷惑かけてない、?』
「強いて言うならもうちょい強請って欲しいくらいだな」
『そんな無茶な………、…何にも恩返し、出来てないのに』
まだそんなことを言うかお前は。
恩返しなんてもん考えなくていいし、なんなら恩を売った覚えだってねえってのに。
「俺からしたら強請ってくれた方がよっぽどその恩返しとやらになるけど?何の恩かは知らねぇけどな」
『……じゃ、じゃああの、ね…あの、……す、水族館って行ったことあり、ますか…?』
「いや、そこは無かったな。お前好きなの?」
『…落ち着きそうだなって』
しがらみから解放されるような、海の中のようで。
ああそうか、その手があったか。
「んじゃあまたスケジュール調整して行ってみるか…それからお嬢さん、プール付きのホテルなんていかがですかね?」
勿論、部屋に。
余程日程が合わないとか、そんなことにでもならない限りは無理な話でもないだろう。
それこそポートマフィアから伝っていくだけでも系列のホテルに該当するはずだし、プライバシーセキュリティも常備されてる。
『プー、ル…』
「…狐の方が好きか?もしかして」
『え、何が…ッ!?えっ、待って嘘、何考え…ッ…ほ、ほんとに!?』
「そのための幹部権限だろ」
精一杯羽広げてもらえるんなら、それに越したことはない。
他の目が気になるのならば、それを遮断してしまえばいいだけだ。
何より俺は、お前のあの姿が愛おしくてたまらないのだから。
ウィンウィンというものじゃあないか。
『い、いっぱい自由…?中原さんもいるの??』
「そうだぞ?流石に部屋の風呂じゃ狭いからな」
あと、中原さん…?と聞き返せば顔を緩ませて、ようやっと笑ってみせてくれた。
嬉しそうな顔しやがって…遅ぇんだよ。