第6章 スカビオサの予兆
まだ学生と言えど、やはり名家のお嬢様なだけあって所作がそれ相応に丁寧なもの。
体に染み付いたそれらは日常動作にも溢れるほどで、本当に育ちがいいのだと実感させられる。
寧ろ自分の場違い感が凄まじいのだが、こいつはそれを気にはしないらしい。
曰く、取り乱しさえしなければあまり違和感は無いとのこと。
『クロテッドクリームにスコーン…ッ、はぅ、もうリア死んでもいい…♡』
「戻ってくるんだリアちゃん、まだお前の大好きな俺と結婚してねぇぞ」
『……サラッとお決まりのプロポーズ挟んでくるのやめてください』
とか言いつつ満更でもなさそうな辺りが愛らしい。
食事中は基本変化しないようにしているリアだけれど、あまりの目の輝きようにVIPルームでも予約しとけばよかったかなと少し後悔した。
軽食を食べ、残すところスコーンと上段のデザートになった所でもまだメロメロのこのお嬢さんは、食に関してなら本当に欲を出してくれる。
これが他のものになると一切の経験が無かったそうで、庶民が行くような施設なんかにもまともに行ったことはなく、勿論誰かと遊びに行った事もないのだそう。
というか、それで一度蜻蛉に連れ出されたところであまりの申し訳なさにストレスで戻してしまったとさえ聞いた。
だからまあ、無理矢理慣れさせていくにしてもあまり追い詰めすぎないようにしなければならないのだが。
「年頃の娘が勿体ねぇよなぁ…」
『?な、何がですか??』
「いや、お前旅行もしたことないんだろ?」
『…う、ん』
ぱたりと夢中になって食べていた手を止めて、俺の方を向く。
一言、たった一言強請ってくれれば、俺だけに限らず他の妖館の奴らだって連れ出してくれたろうに。
「…なぁ、どっか泊まりで旅行行かねぇか?」
『…り、あと?』
「おう」
『な、なんで?』
「お前の希望のデートとの折衷案」
こじつけだがな。
物は言いようだ。
「旅館でもホテルでも、美味いもん食えるし」
『…そんなに、気にしなくていいのに』
「気にしてるんじゃなくて、お前が一々可愛いからもっとそれが見たいだけなんだけど?」
『はうッッ、!!?!?』
瞬時に変化するのを我慢したリア。
偉い、偉いぞ、そしてなんだその反応ぶりは乙女か、知ってたけど。
「リアが幸せなのが俺は幸せなんだけどなぁ…」
『……中原さんのタラシ…』