第6章 スカビオサの予兆
『嫌よ、今日という今日は絶対嫌』
「嫌がるやつとか珍しいくらいなんだけどな?なあ、お前今日も俺に貸しがあるよなぁ??」
『何の?』
「じゃあ今すぐ首領んとこに行っ『却下』一応言っとくけど俺幹部だからな?」
へえ、そうだったんですね、なんておちょくってくるが今日は乗ってやらねえぞ。
そう、俺はこのクソ生意気な小娘をデートに連れて行くのが目的なのだ。
だから、決していつものように頭に血を昇らせてはならない。
『ちっちゃくて分かんなかったなぁ』
「そのちっちゃい奴に頭握りつぶされそうな気分はどうだァこんのクソガキ…」
『な゛ぁうああ゛っっ、ぼ、暴力上司!!』
「言ってろ、都合のいい時だけ部下ヅラしやがって」
ぱ、と離してやれば本気で涙目になりながらこちらを警戒した様子になるリアだが、まあじゃれているだけだこんなものは。
『ぱ、パワハラ!!』
「なんとでも言え、この引きこもり」
『…っ、せ、セクハ…ッ、…』
が、いつもの勢いで口論に発展するも、今日はやけに歯切れが悪い。
何故か顔を俯かせてから続きを言わなくなってしまう。
珍しいな、今までパワハラだのセクハラだの散々俺に言ってきてやがったくせに今更。
しゅん、としたように耳まで垂れて、へにゃりと尾がまた元気を失っていくような。
こいつ、さては今自分が変化してるの忘れてやがるな。
「…そんなに俺にくっつきてぇならとっとと抱きつきでもすればいいんじゃないのか?」
『…』
チラリと一瞬こちらの反応を伺ってから、やけに素直にくっついてきやがった。
何があった…なんて、聞くのは野暮か。
こんなに震えてんのに、俺には言いづらいとか言うあれなのかもしれねえし?
そういうのって、だいたい金銭関係か人間関係の話なんだが。
「おーきたきた。おかえり、俺の子狐ちゃん」
頭を撫でて抱きしめ返せば余計に抱きつく力が強くなって、じんわりと泣いているようにさえ見えて。
もしかして、今までもこういう風にしたい日だってあったのかもしれねえな、なんて。
「なあリアちゃん、やっぱりデート連れ回していい?俺、それで愛想つかすどころかもっとお前のこと可愛く思っちまうだけだしよ」
暫く固まってから、コク、と頷いてくれる。
なるほど、そんな参り方をしてるだなんてよっぽどだな。
…一体誰だ、こいつに干渉しやがったのは。