第6章 スカビオサの予兆
ふ、ふぅん…ふうん???
「おい、どうした。お前今までそんな尻尾まで出したこと無かったくせに」
『えっ、や、やっぱり嫌…ッ、?』
「なわけねえだろ!?違うぞ!?初めて見たせいで新鮮だなってだけでな!?」
本性を晒しかけたところで彼の言葉に何故か酷く怯えた自分がいて、彼の言う“ダチ”という言葉にどこか期待しながら、問う。
『や、やっぱり嫌かなって思っ...ッ、り、りりりリアなんか普通の狐通り越して九...十尾だし、変、だし人魚だし悟りだし気持ち悪いののアンハッピーセットなのに』
「誰もんな事言ってねえだろうが!?ッああああ!!人間だって異能力で虎にもなるぞ!?異能持ちじゃなくても悟りみてぇな推理力持ってる奴だってごろごろいるし!俺なんか金属とお友達だ!!そんな大差ないだろ!!?」
『!!、...っ...人間、と友達、とか.....久しぶりで、その』
たった数人。
指折り数えられるほどしかいないその中に、加わってくれると志願するなんて。
そんな変人は久しぶりで。
「...ほら、心配なら読んでもいいぞ?」
差し伸べられる手に、彼の目を見ると真っ直ぐな瞳をしている。
ああ、知ってるこの感じ...嘘つかない人の目だ。
いい人なのよね、こういう人って。
思わず差し伸べられた手のひらの上に顎を乗せ、そのままごろごろと頬を撫で付けると、その人は大きく動揺してしまうのだけれど私に合わせて頬や狐耳の付け根を撫でてくれる。
尻尾が揺れてしまうのも生理現象だ、敵うわけがない、こんな風にしてもらって。
「ははっ、人懐っこいとこあるじゃんお前。こりゃ中也さんが可愛いっつってんのも分かるな」
『...くぁ、』
「?眠いのか?」
『!?』
リラックスしすぎて無意識にあくびが出たのにびっくりした。
...でも、嫌な手じゃないのよね。
それに、この人...絶対私の事裏切らない。
そんなの、居心地良いに決まってる。
「...寝るならそっち行くぞ?中也さん来たら起こしてやるよ」
『.....寝かせてくれるんだ、?』
「あ?何か言ったか」
ふるふる、と首を横に振ればふっと笑って、彼はこちら側の椅子にかける。
それから軽く撫でられて背中をとんとんされるとすぐにまた眠気が募ってきて。
こんな人が、まだいたなんて。
すぅ、と意識が心地良さに沈んでいった。