第6章 スカビオサの予兆
「さっきみたいなのは、前からか?あいつが幹部になったのも割と最近だし、お前が入った時期なんか顔合わせることもあったろ」
『…前からって言うか、その…“前”、から』
海音の頃から知っている、あの人の事は。
「望んでさえくれれば、俺だって動けるんだけど?」
『潜入作戦、台無しになっちゃうんじゃないんですか?』
「そんなヘマしねぇよ、殺りゃいいだけだ…さっきの様子じゃ、あれだな?お前の“左脚”、十中八九あいつ絡みだろ、その傷」
『見てないのに知ってるあたりがやらしい。立原君も男の子ね』
そういう話してねぇだろ今!!?と、真っ赤になって反論される。
あら素直なこと。
「っ、…なぁ、俺…俺も、“うち”も誰も、お前に敵対するような組織じゃねえんだよ。寧ろ、それこそ保護しなきゃなんねえくらいなのに……あいつなんだろ?」
『……』
確信を持たれているのに嘘をつく必要のある相手ではないため、素直に首を縦に振った。
まあ、これが中也さん相手とかならどうにかして誤魔化したところだけれど。
『…いいよ、慣れたから。そんな顔しないで』
「慣れるわけあるかよ、つうか慣れんな、そんなもんに…お前、中也さんのこと好きなんだろうが」
『っ、…ぅ、…ん』
決して、自分の意思でなかったことなどは彼にも十分に伝わっている。
抵抗しようとしたのを制されたのも、バレていた。
その上でこの人が私にそれを確認するのは、多分、私の気持ちを尊重して大切に思ってくれているからなのであって。
我慢できなくなりそうだ、そんな風に扱われると。
「やけに素直なんだなそこは…まあ今回は俺も黙っといてやるけどよ。次、あったら絶対に放っとかねぇからな?…俺に隠し事すんのも無しだぞ」
『…立原君って私の何のつもりなの?それ…べ、別に保護しろって頼まれてる訳でもないし、家族でも恋人でも…ま、ましてやシークレットサービスでもないのに』
「何、じゃあお前俺の事他人だと思ってるくせして毎度毎度飯食うのに付き合わせてたのか?」
言いくるめられてしまえばうぐ、と言葉を詰まらせる。
だ、だからどういうアレなのかわかんないって言ってるのに。
『…従僕、?』
「なわけねぇだろ、んなもん中也さんだけで十分だ。…ダチでいいだろ?シンプルによぉ」
『……私、狐よ?』
「いいじゃねえか、好きだぜ俺は」