第6章 スカビオサの予兆
だから余計に腑に落ちない。
血縁者でもなんでもなかったはずの、元々他人だったはずの人と。
それも一方的に私がしてもらうばかりになるだなんて。
『だからあの人の感覚がおかしいのよ。放っとけばいいのに、こんな可愛げもクソもない小娘なんか』
「お前自分の事なら容赦なく結構言うよなぁ、ここだと」
『…中原さんの目の前で言ったらなんかすごく悲しそうな顔されるから、いい子にしてんの。分かる?リア賢いから』
「ふぅん?我慢してんのか」
『我慢とかじゃないけど、そこんとこ忘れて流されちゃったらそれこそ来世から一人で生きてけなくなっちゃうもの。変な癖つけたくないでしょ』
「先祖返りも苦労してんなぁ、特にお前みたいな体質だ…、と……ッッ!!!?」
ふと、首元に添えられる冷たい感触。
蛇のように絡んできたそれはただの人間の指で、触れられたせいで瞬時にその相手を悟ってしまい、振り払おうとした手を既のところで止める。
『ッ、…これは、どうも。お久しぶりです幹部さん』
「おお、偉い子だ、てっきり叩かれるものかと思っていたのに。…何、久しぶりに覗いてみたら綺麗な人が見えたと思ったよ」
タチの悪い相手が来た、相手をしないのに限るはずが、立場が違うとそうはいかなくなる。
下手すれば派閥問題にさえ発展しかねない、穏便に済ませなきゃ。
私の首にあてた指でそこを撫で、彼…ポートマフィア五大幹部が一人、“A”は私の耳元に口を寄せて話を続ける。
「へえ、君はそこの十人長と仲がいいのか」
『ぁ、っ…ろ、廊下で見つけ、て……慣れて、ないからシステムを聞い、……っ』
身体、ゾワゾワする。
この人に目をつけられてから、いつもこうだ。
中也さんのいない所を狙ってくるせいで逃げようにも逃げられないし、振りほどこうとすれば幹部権限と中也さんの面子を盾にしてそれを正当化し始める。
そして私がこの男に触れられるようなこの事実を全て、中原中也幹部は知らない…と言うよりは、知らせるなとプレッシャーをかけられてしまっている。
「ちょ、っ…あの、幹部。そいつ、嫌がってるんですけど…離してやってくれないですか?」
「?嫌がっているのか?」
『!!、…別に、普通…ですけど』
「…」
私の過去なら、下手すれば中也さんより、政府の情報網をパイプに持つ立原君の方が詳しい。
恐らく、バレてる…この顔は、