第6章 スカビオサの予兆
「…おまたせ。病院行くぞ」
『っ、!……あ、う、うん』
声をかけたらこちらをちらりと見やり、彼女用には何も買っていないことを確認したのか普段の調子で素直に着いてくるリア。
「言っとくけど、俺はお前が“恋人だから”何かを贈りたいわけじゃないからな?」
『え…?』
「相手がお前だから、綺麗なものでもなんでも贈りたくなるだけだ。それは…覚えておいてほしい」
決して義務感で贈りたかったわけじゃあない。
ましてや、強請られたところで贈りたくない奴相手であれば、俺は贈り物なんざしない主義だ。
「贈り物って、そういうもんだろ」
車を出そうとしたところで、助手席に座った彼女が俺の左手に手を重ねてきた。
そちらを向くと、窓の外の方を向いてしまったままのリアが、耳まで紅くさせてくれてしまっているものだから。
「…リア?」
『……、…勤務中に、こ…小っ恥ずかしいことばっかしないで、下さい……クソ上司…っ』
盛大に照れながらもなんとかそれを誤魔化そうとする様は見ていて微笑ましい程だ。
お前、さては最近煽り方のレパートリーが減ってきたことに気付いてないな?
「おい、誰がクソ上司だ。そんな尻尾揺らしてっと説得力ねえぞクソ新入り…シートベルトは?」
『!!…あ、っ…か、かかか幹部がそんな理由で警察に連行されたら笑えるなって思って!』
「手前それ本気で言ってんなら務所で公開キスす『付けました』はい」
すぐに手を離してシートベルトを付けてしまったその様子に言葉にならないほど胸が鳴る。
可愛い奴。
「病院ついたら病室には一人で入れよ、俺は入るつもりねえからな」
『…ダメなんですか』
「ダメだ、あいつに会うのは仕事じゃねえからな」
『……中でリアが襲われるかもしれないですよ?』
「俺の直属の部下は優秀だから、あんなヒョロいやつに襲われたって逃げられるさ…まあ、助けて欲しけりゃ行ってやらねえ事もねえけど」
そんなに来て欲しいか、そんなにか、そうかそうか。
行先さえ違えばいくらでもいてやるんだがな??
『じゃあリア頑張って太宰さん誘惑して無理矢理犯してもら「リアちゃん、一時休戦だ。いいか?俺は病室の外で待ってる。OK?」…リアと自分とどっちが可愛いわけ?』
「そうだな………、…分かったよ、室内に入るだけな、?入口…でどうだよコラ」
『…うん』
勝てっこねぇわ