第6章 スカビオサの予兆
花を貰ったことがない、とは。
いや、そんな人物この世には溢れ返っているものだとは思う。
しかしそこをわざわざ俺に聞き返してくるあたり、こいつは恐らくそれを特別な行為であると重々わかった上で疑問に思っているのだろう。
日本という国において、個人へ向けて祝いでもなく花を贈るという行為に。
まあ、こちらがどのように意図して贈ろうとしているのかも理解しちゃいないんだろうが。
「へえ、じゃあどれか好きなの選んでみ」
『!?い、いい!!』
言うと思った。
「いいじゃなくて」
『だ、太宰さんのお花買いに来たの!!』
「それはお前だけだろうが、俺はんなつもりねぇよ」
花屋に車をとめて、中まで無理矢理連れて行く。
とっととこちらで見舞い用の花のアレンジメントを注文してしまえばあとはリアの花を選べるようになる。
『ちょっ、何勝手に進めて…っ』
「だぁから、どれか好きなの選んでみろって」
『わ、私はいらないって言って…るの、に』
見てるだけでも耳が生えてきそうな勢いだ、嬉しいなら認めちまえばいいものを。
慣れて、ないんだろうなやはり。
と、そこで店員から声をかけられる。
「もしかして、彼女さんにプレゼントですか?」
「はい、そうなんですけどこの調子で」
『彼女さん!!?!?』
待て、どうしてそこでお前が驚くんだ彼女さん??
俺間違ってねえよな?なぁ???
「…あちらの空調室の中に、ここよりもっと贈り物向きの花がございますよ」
にこりと色々察して教えてくれる店員に指された方を向くと、ガラスの扉を隔てて色とりどりの花が見事に綺麗に並んでいる。
『っ、い、いい…わ、私先に車行ってる…!!』
「あっ、おい!?」
何故か、怯えるようにして手を振り払って出ていってしまった。
店員側からは慌てられてしまったのだが、まああれは本当に車に戻っているだろうから心配するようなことではないのだろうが。
「か、かかか彼女さん…で、間違ってないです、よね?」
「あ、ああ…あんまりプレゼントとか慣れてないみたいで。気遣わないで大丈夫だ……こっちはまた機会を改めます」
頼んでおいた分の花をもらってから、支払おうとしたところでちゃっかりと過不足無しにリアに払われてしまっていたことさえ判明した。
そして急いで駐車場に戻れば、車に入らず蹲って丸まった彼女がそこにいる。