第6章 スカビオサの予兆
「あのですねリアさん」
『はい…』
「あの、…なんで床から立たないんすか?」
先程から、俺に抱き着いても床から離れようとしない彼女。
なんなんだその謎の意地は、何がどうしてそんな所にばかりいるんだ。
あと目を逸らすんじゃない、こっちを見ろこっちを。
『え…床好き』
「知ってんだぞベッドの方が好きなことくらい」
『ゆ、床の方が好き』
「なんなんだよその無理やり設定は。連れてこられた猫みたいに大人しいじゃねえの」
他人か俺は、なんでそんな人見知りもどき発動させてるくせに俺の事離そうとしねぇんだよ、そのまま着いてきてベッドで横にでもなって甘えてくりゃいいのに。
いや、決していかがわしい意味ではないのだが。
『ね、猫…?な、中原さん猫好き?』
「あ?嫌いじゃねぇけど」
『可愛いと思う、?』
やけに食いつくな、どうした突然。
「まあ愛くるしいんじゃねえの?たまにつれねぇのとかもそれはそれで可愛らし…」
と、ここでぶわっと何故か大粒の涙を目に溜める彼女にギョッとする。
待て、何があった今、俺がまた何やらかしたんだ。
『り、あ…が、んばってたまにつれない子になる、』
「どうしたどうした!!?いいだろんな事しなくてもベッタリしとけば!!」
『猫好きって…猫好きって…ッ』
「なんなんだよお前のその過剰反応は!?狐が一番だっつってんだろ俺は!!」
『…キュゥ、』
尻尾が逆毛を立て、そして小さく鳴いてからぽぽぽっ、と真っ赤になって固まるリア。
え、何こいつ可愛…じゃなくてだな。
「……撫でて欲しい子は…分かるか?」
す、と手を差し出して見ると、素早くチラチラと俺の顔と手を何度も往復させて見て、それから。
俺の手の平の上に、まるで仔犬が恐る恐るお手をするかのようにして手を乗せてきた。
…そうかぁ〜、そうきたのか〜こいつ可愛いな本当、なんでこんな要領悪ぃんだめっちゃ可愛いもう保護しときたい一生。
「ぷ、ッ…おま、……そうじゃねぇだろ…あーやべぇ腹痛てぇ…」
笑いを堪えきれずにこぼしてしまえば本気で焦り始めて今にも自殺せんと言うような勢いだったので、そのまま彼女の腕を掴んで引き寄せ、抱きとめる。
バクバクしている鼓動を感じながら、比較的敏感でない後頭部や狐耳周りを大きく撫でる。
「甘えにおいでって言ってんだよ、馬鹿だなぁほんと」