第6章 スカビオサの予兆
リアの部屋で同棲することが決まった時点で荷物は移したのだが、それでも家具はほとんどいらなかったために、拠点をふたつ持っておいてもいいだろうと首領に言われてしまい、結局は以前のまま部屋はおいてある。
自分の家に人を…それも女を招き入れるだなんて初めてだ。
車に乗って離れるのにさえ嫌がって離れなかったので、異能を使って空中散歩をしながら久しく帰ったわけなのだが。
ソファーにも座らずベッドにも上がらず、床で尻尾にくるまって動かなくなってしまうリア。
なんだこの塊、もふっていいのか?気持ちよさそうだなおい。
じゃなくて。
「リア、そんな所にいねぇでせめてソファーにでも…」
『…床でい、』
「いや良くねぇだろんな固くて冷たいとこ。いいからとっととちゃんとした所に『り、あ…部下、だからい…いの』今更何言ってんだよお嬢様…」
部下だ?
なんだ手前、んな事思って行動したようなことがあったのかおい、驚きだぞ幹部様は。
「だいたい俺の主人だろうが、あ?」
『怒ってない、の…なんで…?』
「俺が悪いから当然だろ」
『…なん、で…いっつもそうなんですか、』
「……だって俺リアのこと責めたくねぇし、責めるつもりねぇし。そもそも悲しませてんのが俺なんだから当然だろ?」
寝てる間独りにするのは、そもそもこいつの睡眠の質を下げる行為だったはずだ。
分かっていたのに、夏目と共に置いていった俺が悪い。
彼女は俺のそんな行為に対して、確かに嘘つきと言ったのだ…何も間違ってなんかいない。
『飼っ、て…リアのこと』
「…俺が飼ったら、言うこと聞く?」
『…ん、…なんでも、聞く』
本気でなんでもやりそうだから恐ろしい。
が、そうか。
それならばまあ…ここまで同じようなことを言ってしまうのであれば、むしろそれに従う方がスムーズか?
「じゃ、お前も俺の事飼ってて。それが条件」
『………は、い』
「お、やっと認めてくれた。…そっから出てこい、俺んとこおいで」
しっぽの中にくるまっていた少女の姿が、ゆっくりと現れる。
そして、腕を広げ、顔を真っ赤にさせて彼女は言った。
『…起こして、下さい』
「ん?何だそれ、甘えてんのか?」
『う、ん…抱っこ、』
「……起きなくてもそんくらいしてやるよ。飼い主はペットに甘えられんのに弱ぇからな」
なんて、嬉しそうなんだろう。