第6章 スカビオサの予兆
「おい、手前らなんでこんなこと…ッ!!リアは!!?」
「あたしだってリアちゃんにこんなことしたくないわよ!!けど仕方ないでしょ、太刀打ちできるような奴ここにはいないの!!本気で止めなきゃ死人が出る!!!」
リアの部屋の外からそこを凍らせ続けている雪小路。
そして中に入って分身でリアを相手しているという御狐神。
「…っ、雪小路さん、こうなったら仕方がない。リアが気を失うまで凍らせてください!!」
「あんた本気で言ってんの!!?ただでさえこんなやり方でしか相手出来ないってのにッ」
中の様子が分かるのは分身を中に入れている御狐神…そして百目の能力を持つ夏目のみ。
「反ノ塚、手前なんとか出来ねぇのかよ…?」
「…いや、無理っしょ。声だって届かねぇし…あいつずっと泣いてるから」
「!!!泣いてる…?」
どういうことか訪ねようとすると、妖力で雪小路が押し負けたらしく、吹雪がかき消され、ドアが開く。
「ッ、相変わらず強いわね……流石は一人で純血の妖怪と渡り合い続けただけのことはあるわ」
冷や汗を伝わせる一同。
御狐神の分身が一斉にこちらに吹き飛ばされれば、中からおぞましいオーラが放出される。
「…リア、少し休みましょう。ゆっくりすれば落ち着けます」
『……うそつき』
「!!リア、お前なんでこんな…っ」
『うそ、つき…うそつき…ッッッ!!!!』
御狐神の問いなど梅雨知らずとでも言うように、部屋の奥から叫び声になって聞こえてくる。
「リア!!いいから話を…ッ、すげぇ圧だ、なんなんだよこれ!?」
「リアたんごめん!!中也たんと話したいことあって、僕がお願いしたんだ!!」
『いいわよ、もういい!!どっか行かせて!!!もうどうにでもするから…っ、……どうせ何願ったって叶わないのよ!!そんな中途半端ならいらない!!何もいらない!!!』
チラリと見えた、真っ黒な尻尾。
他の九本の真っ白なそれとは違う、明らかに異質なそれ。
「お、ま…なん、…っ」
『ッ、…いらないの!!!』
「ほう、これはあれか…久しく見るな」
ふと、耳元を過ぎ去る声。
聞き覚えのあるその声は、今日はふざけておらず、目は真っ直ぐにリアの方を向いていて。
「!!あんた、いつの間に…っ!?」
「……リア、ただいま戻ったぞ!!!お前のためのカゲ様だ!!!」