第6章 スカビオサの予兆
「僕からしてみたら二度と関わらないでほしいところだし、あの子の知らないところで生きて知らないところで勝手に死んで欲しいくらいのものだったんだけどね」
「…俺にどうしろって?」
「やだぁ、分かんない??…死なないでって言ってるんだけど」
唐突に扱いの変わる夏目に、戸惑う。
そんな風に俺に向けて言う奴なんて、めったに居ない。
「どうやってだよ、そりゃくたばってやるつもりはねぇけど…死ぬんだろ?俺」
「それ何とかしてくんない?異能力者でしょ?」
「無茶言うな、ビビらせてきた奴が言うセリフかよそれが」
「…リアたんだけじゃなくて、皆中也たんに死んで欲しくなんてないからね?」
ふと、自分の胸の内から込み上げてくるものがある。
それはリア…ひいては海音に感じさせられたそれとよく似ていて。
全く繋がるはずのなかった縁が、こうして育まれて。
俺にそんなことを言ってくれてしまう奴に出逢わせてくれてしまうだなんて。
「…言うじゃねえかクソ兎」
「んふふ、僕ってばお茶目なうさぎさんだから♡」
「はっ、言ってろ。とりあえず忠告は聞いててや___」
ようやっと落ち着けたような、一人じゃないと実感したような、そんな心地の瞬間のこと。
大きな音と、地響きがする。
「あぁらら、荒れちゃっか…ごめん中也たん、君に必死でこっちの未来視てなかった……上にちょっとここまでとは予想外だねぇ」
「はぁ!?なんだよこれ、まさか襲撃か何か起きて…」
大きくノックされるドア。
外からは偉く動揺した渡狸の声。
「おい、残夏!!てめぇんとこに兄貴いんだろ、とっととリアんところ連れてけっ!!!あいつさっき目ェ覚めたと思ったら…ッ」
「渡狸か、リアがどうしたって?」
「狐野郎と雪小路が今必死に部屋抑えてっけど、いきなり能力が暴走し始めて妖館の結界が壊れそうなんだよ!!」
純血の妖怪から守るための結界。
なるほど、それでこの地響きか。
「えっ、その言いぶりじゃああれ?もしかして部屋に無理矢理閉じ込めてるの?」
「そうでもしねぇと歯が立たねぇんだよ、あいつ今“真尾”生えてて手に負えねぇ…」
悔しそうに言う渡狸の言葉に引っかかりながらも、部屋へ向かう。
するとその階はまるで別世界のように暗くなっており、吹雪が吹き荒れ、幾重もの結界が張り巡らされていて。
「こんな…っ、!!?」