第6章 スカビオサの予兆
「どれだけのものかは分かってくれた?中也たんが死ぬってことは、あの子にとってどれ程のものか…それさえ視えるし感じるからこそ、あんなに怯えているんだろうね」
眠っている時にさえ、俺を探してしまう程に。
「それ、回避する方法は?」
「君が二度と彼女と関わらないように、早い段階で捨て去るか…………もしくは、あの子の血肉を喰らうかだね」
「!!!てめっ、…」
「事実、それくらいしたってどうなるか定かじゃない。どう足掻いても君は死ぬ、それも戦いの中でだ……人魚の伝説は知っているでしょう?寧ろ、食べてあげた方があの子の為にさえなるかもしれないくらいだよ」
「……例えばそれで俺があいつの一部を喰ったとしてだ。その先であいつは幸せなのか?」
「なんとも言えないね、罪悪感ならあるみたいだけど…君がいるだけまだマシだ。ちなみに言っておくけど、あの子の血肉を喰らえば確かに永遠の命が手に入る。これは本当の話だよ」
本人にその自覚は無かった。
なぜかと言えば、まだ試した者がいないから。
喰わせたことがないからだ。
…いや、そうか?
そうなのか?
それならば、どうしてあんな鱗の剥がれ方をする?
どうして、皮膚がちぎられたような痕がある?
「意外と頭いいんだね?気付いたかい」
「……あいつ、喰われたことあるのかよ」
「あるよ、何回かね」
何も言えなくなる。
しかし、それから話を続ける夏目の言葉に、ついぞ俺の思考は停止することとなった。
「けど、それじゃあ不死者がそれだけいないとおかしいよね?居ないんだけど…なんでだと思う?」
「…不完全な摂取だった、からか」
「うん、そういうことになるよね…分かった?」
伝説自体は嘘ではない。
確かに不死になるのだと、こいつは言った。
つまりは摂取方法が間違っていたとしか考えられないわけで。
「…喰い殺すんだよ、一度」
「……一度って、何だ」
「あの子や僕のようなものになるとね、どうしてもそういう表現になってしまうんだ。許して欲しい…分かってとは言わないから」
「殺して…、その上に、喰えだって、?……出来るわけねぇだろ、そんなこと」
だから言ったじゃん、なんとも言えないって。
夏目の声が響く。
どう転んでも、あいつが笑える未来にならない。
俺があいつと出逢ったこと自体が、不幸の始まりだったってのか…?