第6章 スカビオサの予兆
「俺が?…死ねるようなタマだと思うかよ、こんな奴が」
「何せ相手は妖怪だからね」
「…リアは?」
「大体想像つくでしょ…君が死んで、あの子が生きていられるなんて思う?」
想像がつく。
言われてみれば確かに。
だからかは定かではないが、未来を視たと彼女が言った途端、あいつは俺と距離を取ろうとした。
それは俺のその未来を回避するためだったのか、俺と離れたかったからか…どちらにせよ、彼女が精神のバランスをとるために半本能的に行った行為だったのだろう。
とすると、例えば確定している未来とやらで俺が死んだとして、あいつはどうなる?
自殺…なんてしようものならここの連中が黙っちゃいないだろうから、そうじゃないにしても、閉じこもるくらいはしても全くおかしくないような。
俺の思考を読んだ夏目に呼ばれ、目を合わせられる。
「中也たん、少し考えてみて欲しいんだけどさ。リアたんってポートマフィアに所属して、尚且つ新入りで準幹部…そのままいけば幹部への道すら示されているような子だよ?異能持ちでもないのに」
「あ、ああ…それは確かにそうだが」
「何か気付かない?」
「…何かって?」
「君、今僕やそうたん…この妖館の皆がリアたんを止めてくれるとか、何とかしてくれるとか考えてるでしょ」
嫌な汗が引かない。
自分が死ぬ分にはまだいい。
しかし、どこかで分かっているのだ…その先にあるものを。
あいつには、
「リアたんは、」
__“終わり”がない__
「終われないんだよ」
自分がそれを悟ったところで、やっと頭が機能し始める。
そもそものあいつの戦闘力といえば、俺でさえもが計り知れない程に未知数で、しかし組合の異能力者をものともしなかったということだけはつい最近知ったこと。
そんなリアを止めるなんて芸当、例え先祖返りだろうと容易ではないだろう。
そして更に、あいつは悟りの能力を持つ。
「例えばあの子が自殺にでも成功してみよう…それか僕達がそれを阻止しきって、寿命で亡くなったとしようか」
季節が巡って生まれ変わったら、その記憶は強制的に彼女に感覚としてさえ蘇る。
そうしてまた戻ってくるのだ、白縹リアとして。
俺のいない世界を永遠に生き続けなければならない。
だから、彼女は先祖返りのシステムを崩壊させる薬を創りたがっているというのに。
「…なんてことだよ」