第6章 スカビオサの予兆
リアを撫で回し続けていればいつの間にやら寝息が聞こえてきていて、しかしそこで問題が一つ生じていた。
「…リアさん、噛んでますよ?このままじゃ撫でてやれねんですけど」
「ふふふ、中也たんダメだよ〜…リアたんの愛情表現じゃないのそれ♡」
「愛情表現て、こんなことして歯悪くしたらどうするんだよ?」
「突っ込むとこそこなんだー??」
膝の上で寝かせていると、彼女を撫でていた手の手首に甘めに突然噛みつかれ…そのままなんの夢を見ているのやら、親指の付け根や指の先を控えめに口に含まれている。
なんだこいつ、赤子みてぇだなこうしてると。
「つか、これのどこが愛情表現だよ?どう見ても食いもんの夢見てるだろこいつ。何が食いてぇんだ?おい、言ってくれたら起きてくるまでに作っててやるのに」
「うぅん、見事な過保護っぷりだ…でも中也たん、間違いなくこれは中也たんの夢だと思うんだ」
じぃ、と先程から微笑ましそうに笑っている夏目に、ずっとこうして訂正されてばかり。
そうなのか?
こいつにとって俺は食べ物なのか、そうかそうか。
「いや、そうじゃなくてさ」
…ああ、そういやこいつも考えてること読めるんだっけ。
「ほらほら、完全変化中だよ?今のリアたん」
「それとこれとなんの関係があ……あー、まて少し分かった、獲物だと思われてるんだな?」
「違うからとっとと調べてみてくんない??」
仕方が無いので、とりあえず携帯を起動させて調べてみる。
まあ、確かに前もマーキングされてたところだしな。
今回のこれにも何かしら意味があるかもしれない。
なんて、そちらに夢中になっていたからだろうか。
『ン…、…ン、』
「こら、リア少し痛くなってきてるから…」
少し噛む力が強くなってきて、思わず手を抜こうとして。
それがいけなかったのだろうか。
検索をかけてみると、甘噛みをしてくるのは狐の甘え切った感情表現なのだと、確かに夏目に教えられたような記事がヒットする。
そして今、それを無理にやめさせたせいでか、リアが泣きじゃくり始め…あ?
『なかは、らさ…っ…置いてっちゃ…、』
やけに魘されてやがる。
こいつまた何か視てんなさては…
「…置いてくかよ馬鹿」
撫でるのを再開し、今度は自分から手をまた口元に差し出してやると、安心したようにそこにキスして眠ってくれた。
「仲良いねぇ」