第6章 スカビオサの予兆
「寧ろそんな歳でよくもまあ耐えてきたもんだよ。その上俺にまでそこまでするとか、しなくていいし…しなくなったところで俺がお前のこと大事なのに変わりねえから」
寧ろ感謝してるくらいだぜ?気付かせもせずにまさか仕事までやってくれちまってたとはな。
なんて笑われるのに、初めて胸が大きく鼓動した。
…なに、これ。
『……、?…えっと…な、に?』
「何って…ありがとうっつってんだけど?」
『…う、ううんッ…!』
初めて、報われた気がした………初めて、お礼なんて。
ありがとうなんて、実の家族にさえついぞ言われることはなかったのに。
「何お前、すっげぇ尻尾振れてる」
『…も、もっと褒めてもい……!!!な、なんでもない』
「……おい渡狸、リアってもしかして褒められんのに素直になんのか?」
「えっ、…い、いや…人によるかと」
「…いつもちゃんと感謝してるからな?言っとくけど」
耳が溶けそう。
…そっか、私がずっと欲しかったのは多分これなんだ。
承認欲求は、認められれば報われる。
こんな最上級の認められ方、嬉しくならないわけが無い。
「ちなみにもうひとつ言うなら…あれだ。……仮にもとかじゃなくて、ちゃんと好きだから…俺の口の悪い言葉で自信なくさなくても、いい。ご主人様だろ」
『…じゃ、あその……部屋、まで連れてって、?』
「……喜んで」
抱え上げてくれてしまう。
簡単に…そして、心底幸せそうにして。
私、今貴方の為に生きられてる…?
「ありがとうな渡狸、お前凄いわ」
「え!?何を言ってるんです兄貴っ、自分なんて兄貴の足元にも及ばねえっす!!」
そう君やカゲ様、残夏君に対してとはえらい差だな…
『バッテリー』
「俺が動力源なのか?」
『ん…』
そういや充電不足だったっけ、とまた笑われて、彼に抱きついて彼の香りに包まれる。
「……反ノ塚のところで寝なくていいのかよ?」
『…行った方がいいの、?』
「監禁すんぞ手前」
『口悪…いいよ、して。したいようにし、ッひぅ…っっ、!!!』
甘噛みされた狐耳に、背筋が仰け反った。
エレベーターに入っても、彼からの愛撫は続く。
「声我慢すんな、しんどいだろ」
『そ、と…やだ…、』
「別の野郎に色仕掛けしやがった仕置きだ、覚えときな」
ジンジンする…何なんだろう、この感覚。
恋って不思議。