第6章 スカビオサの予兆
「逆に聞くけどお前、俺が何かお前の役に立つから俺の事好きになったのか?そんなに自分追い込んで追い詰めて、消えちまいそうになるくらいに?」
『そもそもの前提が違うもの。中原さんは人に愛される人であって、私みたいな幽霊とは違「リア、」……はい』
幼い頃から知っていた仲間内ではよく言っていたものだ。
自分は幽霊だからと。
形容詞としてこんなにもお似合いなものはない。
何の役にも立てない木偶の坊……何にもできない厄介者。
いてもいなくても同じなのに、邪魔をするから嫌がられるの。
「……お前が俺にくれるその気持ちは、無償の愛って言うやつだと思うぞ?俺は」
『…それで、なんですか』
「お前がくれるから、俺は返すんだよ。ギブアンドテイクじゃねえか…無償の愛を無償で返してんだ、それの何がおかしい?」
そんなことを言う人を、かつて私は見たことがない。
確かにこの人は私によく言っている。
私がくれるから、返すのだと。
無償の愛とは、その実、もらった時点でそれを返す時には無償というものでは無くなっているものなのか。
そう考えたことは無かった。
「それだけでも、お前が俺に大事にされる理由には事足りるとは思わないか?…お前、自分がどれだけ俺に尽くして大事にしてくれてんのか、自覚ねえの?」
『?そんなの、中原さん相手なのに…呼吸するのと、一緒じゃないですか』
「それを愛情っつうんだよ」
頭を撫でられれば、耳がピクリと小さく跳ねる。
「俺が体壊しそうな量の仕事…しかも他の奴の分まで引き受けてこなしてたら、心配しねえ?」
『…で、でもそれとこれとは別です』
「変わんねえよ、俺だってお前のこと大好きなんだから」
『………こ、子供だからって言ったのに?』
「そりゃ言うだろ、若い内からしなくていい事までするもんじゃねえんだからよ…俺の直属の部下にはんな真似させるつもりねえよ?」
それも、こんなに大事な女の子によ。
なんて、珍しくこんな言い方をされれば、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。
『が、餓鬼扱いじゃないですか…』
「当たり前だ…俺が惚れた女はまだ子供なんだから。なんなら親みてぇに甘えちまえばいいもんをお前ときたら、なんでもかんでも遠慮しすぎなんだよ」
大事にしている、という意味…らしい。
私が至らないわけでは、なかったらしい。