第6章 スカビオサの予兆
「まさか、自分がこんなことする日が来るなんて思わなかったよ…キツくねえの?色々」
私の尻尾を洗い、乾かして、ブラッシングを始める彼。
私から、お願いした…というよりは命令した。
愛情表現というか、他の誰にもしてもらった事などない行為である。
この人が、初めて。
それがたくさん欲しかった。
『ン、…気持ち、……っ』
変な声の上擦り方はしないものの、やはり敏感なものは敏感で、息が詰まる。
だけど、発情期とは違って心地よくさえある。
彼に、触れられてる。
「揺れてんなあ。それにしても綺麗な毛並みだ…気持ちいいし」
『き、れい…?…そ、そう』
「……まあ変化してなくても綺麗だけど」
耳元で伝えられるのにビクゥッ、と跳ねる。
き、綺麗…綺麗って言ったこの人、今私に綺麗って…綺麗って…!!!
『そ、そそそそそうです、か…っ…あ、も、物好きですねほんとッ』
「物好きって、そんな事ねえと思うが?お前黙ってれば美人じゃん」
『…だ、黙っとく』
「いやなんでだよ、喋れや」
『だ、だって中原さんが黙ってる方がいいって!!』
「誰もんな事言ってねぇだろ、口開いたら可愛らしいって意味で言ってんだよこっちは!!!」
『え……あ、え…』
ベットの上で座ってブラッシングしてくれている彼の方に振り返って、思わず衝動的に抱きついた。
「うお、っっ!!?…って、おいリア!タオルはだけてる、タオル!!!胸当たってんだよ離れろ!!!」
『は、離れるの!?やだッ!!』
「やだって!!!…、やだって、なぁ…?……あー…えっと、どうした??」
『…お、男の人に可愛らしいとか言われるの…あんま、ないから』
「嘘つけ、蜻蛉とか御狐神とか反ノ塚とかいるだろ」
『………好きな人、に』
勇気を出して、訂正する。
嫌がられるかな、変かな…
でも私、こんな気持ちになるの貴方が生まれて初めてなの。
「…馬鹿、可愛いよお前は。……だからその、あんまり裸で抱き着かれると俺も余計に意識しちまうっていうか…そのなぁ、?……どうしていいか困っちまうんだけど」
目のやり場っつうか、手のやり場っつうか…
照れきったようにして頭を撫でてくれる彼の言葉に、我に返った。
『あ、…ち、痴女って思われ、?』
「思ってない、思ってないからとりあえず離れろ襲っちまう」
『襲っていいよ!!!』